「ヒラリーは公用のEメールを勝手に削除した!」
6月2日、カリフォルニア州サンノゼ市のコンベンションセンターで、ドナルド・トランプがダミ声で怒鳴ると、聴衆は激しいブーイングで応えた。
「私が大統領になったら、あの女を刑務所にぶち込んでやる!」
トランプが拳を振り上げると、聴衆は「うおおおお」と雄叫びを上げて足を踏み鳴らした。
聴衆の9割以上は白人。平日の夕方だから仕事帰りのはずだが、ネクタイやスーツを着た人は少ない。ほとんどがジーパン。ワークブーツの人も多い。
彼らは「サイレント・マジョリティー」と書かれたサインボードを掲げ、上気したピンク色の顔で「移民を追い出せ!」と熱狂的に叫んでいる。まさにピッチフォーク・モブ。よそ者をリンチするため、燃え盛る松明(たいまつ)やピッチフォーク(干し草を持ち上げるための農具)を手に村を練り歩く怒れる群衆だ。
時々聴衆に交じった反トランプ派の人が「レイシスト!」と叫ぶ。トランプが「そいつをつまみ出せ!」「顔面を殴ってやりたい」「そいつを殴ったら弁護士費用を出してやろう」などと煽るので、各地で聴衆が実際に暴力をふるって問題になっている。トランプの集会はどんどんナチス党集会に似てきている。
1時間ほどのスピーチでトランプはほとんど絶叫し続けた。ヒトラーのように常に大きく手を動かし、常に誰かを罵っていた。Stupid、Moron、Idiot(どれも馬鹿という意味)、Liar(嘘つき)など、政治家の演説ではめったに聞かれない強烈な言葉が次々と炸裂する。
『アプレンティス』での物静かな進行
だが、トランプはそんな人間ではなかった。
彼をアメリカの国民的な人気者にした『アプレンティス』(2004年~)のシーズン1を12年ぶりに見直してみた。トランプの弟子(アプレンティス)を志願する14人の参加者が、毎週トランプから課せられるビジネス・チャレンジ(たとえば同じレモネードをいかに高く沢山売るか)を戦う勝ち抜きゲーム番組。毎回、番組の最後に、最も成績の悪かった者が排除される。その時トランプが言う「You're fired(君はクビだ)!」は流行語になった。