報道にはすべて裏がある

2016年11月16日

»著者プロフィール

 「みんな怒ってますよ。怒ってないのは赤ん坊ぐらいじゃないか。もう彼女は辞めるしかない」

 ソウルに入り、いつも取材を手伝ってもらっている韓国人ジャーナリストと会うなり、こう興奮気味に言い出した。

 朴槿恵大統領のことだ。大統領の退陣を求めて週末の11月12日の晩にソウル中心部で大規模なデモがあったばかりだ。集まったのは、警察発表で約26万人に上る。朝鮮王朝の正宮である景福宮の光化門から2キロ離れた南大門までソウルの目抜き道路の世宗大路がロウソクを手にした人の波で埋め尽くされたという。

 私がソウルに入ったのは、その翌日。ソウルの街は平穏そのものだったが、デモを取材したこの韓国人ジャーナリストは、まだ興奮が覚めやらぬようで、もう大統領は退陣するしかないと滔々と話していた。彼は優秀なベテラン・ジャーナリストで、いつも冷静沈着。保守支持の立場で、2012年の大統領選でも朴槿恵氏に投票したと話していた。その彼がこんなに怒っているのである。

11月12日にソウルで行われたデモ(GettyImages)

タブレットを独自入手

 いま韓国はこの話題で一色だ。テレビをつけると朝から晩まで関連するニュースを流している。韓国のケーブルテレビ局JTBCが最初のスクープを報じたのが、10月24日。朴大統領の親友である崔順実氏が使用していたタブレットを独自に入手し、その中に残されていたデータを分析した結果、朴大統領が崔氏にスピーチ原稿や機密資料などを見せていたことがわかったとのこのテレビ局のニュースをきっかけに、メディア各社が一斉に後追い取材を開始。二人の関係を物語る材料が続々と出てきた。崔氏が朴大統領のファッションの指南役だったに始まり、青瓦台の圧力で財閥に出資させた立ち上げた財団を崔氏が私的に流用していた、崔氏と近い関係にあるとされる映像監督が韓国の大手製鉄会社傘下の広告会社の乗っ取りを図りそれに青瓦台が関与していた、等々。連日のようにスキャンダルが噴き出している。

 はては、朴大統領は崔氏の父親で宗教家だった崔太敏氏の洗脳下にあり、特別な関係だったのではないかとまで言われている。崔太敏は朴大統領の父親の朴正煕氏が大統領だった頃に青瓦台に出入りするようになり、「韓国のラスプーチン」とも呼ばれた人物だ。父親の朴正煕氏の暗殺によって青瓦台を追われ孤独な生活をしていた朴槿恵氏を支えたのが、崔太敏氏であり、その娘の崔順実氏と親友のようにつきあってきた。朴正煕元大統領の姪と結婚し、朴槿恵氏とは親戚にあたる金鍾泌元首相が生前に朴氏が崔太敏氏の子を産んだと生前に証言していたとの情報まで飛び交っている。

 朴大統領には「コンクリート支持層」と呼ばれる、強力な支持基盤があった。国民の3割にも上ると言われ、その多くは父親の朴正煕大統領を慕う高齢者たちだ。朝鮮戦争後、アジア最貧国のひとつとも言われていた韓国を、日本からの支援をテコに成長軌道に乗せ、現在の経済発展の基礎を築いたのが、朴正煕氏だ。高齢者たちにとって輝かしい韓国現代史を体現する指導者だ。だからこそ、その娘である朴槿恵氏を固く支持してきた。

 ところが、このスキャンダルが噴き出して以来、その輝かしいはずの朴正煕時代を汚さんばかりの事実が報道で明らかにされている。朴正煕時代の青瓦台に怪しげな宗教家が出入りを始めるようになり、その娘を洗脳していたのではないか。朴正煕元大統領を慕ってきた高齢者たちには想像もしたくない話だろう。

 いまや朴大統領の権威は地に墜ちている。支持率はわずかに5%となり、ソウルなど首都圏ではその数字は限りなくゼロに近くなっている。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る