今年4月までの4年半の間、国連安全保障理事会1718委員会の専門家パネルに所属し、対北朝鮮国連制裁を担当した。専門家パネルは、安保理常任理事国5カ国と日韓、南半球1カ国から各1人ずつ、計8人で構成される。パネルの任務は、制裁違反事件の捜査、違反企業・個人の特定、及び制裁対象指定や決議・制裁履行の改善策等に関する安保理や加盟国への勧告だ。
今年3月に採択された国連安保理決議2270号には、私どもの勧告が多数採用され、当初、「最も厳しい対北朝鮮制裁措置」と評されていた。にもかかわらず、北朝鮮はその後も相次ぐ弾道ミサイル発射や核実験を強行し、今や「さらに強い制裁措置」の必要性が声高に主張されており、すでに決議の効力に疑問が投げかけられている。
安保理決議の採択だけで、自動的に制裁の実効性が担保されるわけではない。各国は、決議の国内履行のための立法・行政措置を講じる必要があり、決議が実際に効力を発揮するまでの間、タイムラグが生じる。報道によれば、2270号決議採択後、北朝鮮と親密な関係にあった国々の一部(ベトナム、マレーシア、ウガンダ、ナミビア、エジプト、モンゴル、ポーランド等)では、北朝鮮との関係をようやく見直しつつあるという。極めて遅きに失した感が否めないが、彼らの「真剣度」の評価も含めて、数多くの国々で2270号決議に基づく制裁の効力の有無を見極めるには、もう少し時間が必要だ。
他方、一部の国々では、すでに同制裁を無力化する動きが露見している。2270号決議は、北朝鮮による石炭や鉄鉱石等、特定の天然資源の輸出を原則禁止とした。しかし、生活目的であれば、北朝鮮がそれらの輸出で得た収益を大量破壊兵器製造に転用しないことを条件に、取引できる例外規定がある。中国やロシアなどはこの例外規定を乱用し、取引を持続させているが、これは、安保理決議の正当性に疑義を投げかける深刻な問題だ。また、北朝鮮と経済関係を有する他の国々が、中国経由で北朝鮮との禁輸物資の取引を継続している可能性も懸念される。