11月21日、安倍晋三首相がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスを訪れ、マウリシオ・マクリ大統領と首脳会談を行った。日本の首相がアルゼンチンを公式訪問し、現地で2国間の首脳会談を実施したのは安倍首相の祖父にあたる岸信介元首相以来57年ぶりとなる。マクリ政権は日本との経済関係強化を熱望しており、アルゼンチン国内のインフラ整備に日本企業が参画することや両国の貿易投資の促進を図ることで一致した。
アルゼンチンは昨年12月に12年間続いた反米左派政権を選挙で倒したマクリ政権が誕生して以来、経済情勢予測が好転。国際通貨基金(IMF)は今後5年間、年率3%の経済成長が見込まれるとマクリ政権の経済政策を後押ししている。欧米の国際的企業が相次いで投資拡大を発表しており、日本も今回、「バスに乗り遅れるな」と成長が見込まれるアルゼンチン市場への競争に加わった形だ。
元日本代表FW、高原を入団させた大統領
米国のビジネススクールで学んだ実務家であるマクリ大統領はサッカー界のスーパースター、マラドーナが在籍した名門クラブ、ボカ・ジュニアーズの会長を務めた経験があり、会長時代の2001年、元日本代表FW、高原直泰をチームに入団させている。その後、ブエノスアイレス市長を経て大統領にまで登り詰めたのだが、マクリ氏自身、日本の関係者にあうと「高原をボカに入団させたことは私の会長時代の大きな実績である」と真顔で語り、日本との絆をアピールするのだという。
マクリ政権発足後、高官は、日本政府関係者と密接な関係を築き始めており、日本側との連絡はSNSを通しても可能。まるで若者たちがやりとりするSNS事情のように、日本側からの連絡が既読になればすぐにメッセージが返信されてくるのだという。安倍首相との会談自体もマクリ大統領自身が熱望したとされる。マクリ氏は来年、訪日することを予定している。
人口4300万人、面積は日本の7・5倍の広大な領土を持つアルゼンチンはGDP(国内総生産)ベースで約5800億ドル。一人あたりGDPでは約13000ドルで、南米ではブラジルに次ぐ経済規模を持つ国家である。
しかし、2001年に金融危機が起こってデフォルトを宣言した後、長らく不安定な国内情勢が続いた。同国の債務返済問題をめぐり、債務再編を拒否したヘッジファンドとの法廷闘争は、アルゼンチンが国際金融市場へ復帰する道を長らく閉ざしてきた。
そうした中で、03年に政権を発足させたネストル・カルロス・キルチネル元大統領、そして、07年に政権を引き継いだ、キルチネル氏の妻であるクリスティナ前大統領のもとでは近隣のブラジルやベネズエラと同様、社会保障費の増大など予算ばらまき型のポピュリズム政策に走った。その結果、海外から(特に欧米諸国から)の投資減少を招き、経済は低迷。さらに、インフレが高騰するスタグフレーションに陥った。