世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月23日

 10月21日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、フィリピンのドゥテルテ大統領の訪中に関し、短期的な見返りを得られたとしても、中国が南シナ海問題で妥協するはずはないので、そうなれば国民の支持も失うし、米国を足蹴にしたツケが回ってくる、と苦言を呈しています。要旨は以下の通りです。

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 ドゥテルテ大統領は北京を訪問し、最も緊密な同盟国である米国を離れ、台頭する超大国である中国の懐に飛び込むという、劇的な「軸足移動」に出た。

 大統領に就任してから、ドゥテルテがASEAN以外の国を訪問するのはこれが初めてである。滞在中、ドゥテルテは米国に「さよならを言う」ときがきた、「中国だけが(フィリピンを)助けてくれる」と述べた。この言葉通りになれば、地域の地政学的な力関係は、冷戦以来最も大きく書き換えられることになる。

 ドゥテルテは、その強硬的発言にもかかわらず、フィリピンの基本的戦略を本気で逆転させようとはしておらず、米中と駆け引きしているだけの可能性もある。しかし、彼は自身の動きがフィリピンだけでなく、地域全体をも危険にさらす非常に危険な駆け引きをやっているということを自覚すべきである。

 ドゥテルテは中国に媚びを売って対米バッシングをしているが、それは米中双方がフィリピンから離れてしまうリスクを含む。フィリピンは、ドゥテルテがオバマ大統領を侮辱したぐらいで、米国がこの地域で最も緊密な同盟国を見捨てるわけがないとタカをくくっているらしい。

 しかし、オバマに対する侮辱発言で、ドゥテルテは大統領に必要な巧妙さを欠いた。南シナ海で米中の緊張が高まったとき、これは自らの首を絞めることになりかねない。更に、米軍の地域プレゼンスにとって鍵となる米比合同軍事演習を中止するというような脅しを、米政府が見過ごすとは思えない。

 他方で、ドゥテルテは対中外交でもっと難しい決断を迫られる。フィリピンが南シナ海問題で中国の戦略的立場を支持する方向に転向する代わりに、彼は貿易投資の拡大を望んでいるのかもしれない。それは短期間で見れば、ある程度は成功したかのように見えるだろう。

 しかし、中国は南シナ海の41の島と岩礁をすべて自分のものにしようと計画している。従って甘言は長きにわたり中国を満足させそうにない。フィリピンは、貿易投資の拡大の代わりにフィリピンの領有権主張を放棄させるという、中国の外交力学の下に置かれてしまうリスクを負う。そうなればドゥテルテは、国民の人気も麻薬対策で培ったタフガイのイメージも失ってしまうだろう。

 それにドゥテルテが国際仲裁裁判の裁定に反する妥協をすれば、地域における法の支配の根底を揺るがし、中国政府を更につけあがらせる。

 慎重な反省が必要なのはドゥテルテだけではない。米国もフィリピンが中国になびいた責任の一端があると自覚すべきである。オバマのアジア回帰政策は気合いが入っていなかった。米国は地域の友好国に、より強いコミットメントを示す必要がある。

 ドゥテルテが自身の外交的冒険主義を転換するには遅くはない。彼は、米比同盟を放棄する意図はないと明言すべきである。南シナ海問題のように炎上しやすい問題について、米中対決を仕組もうとするのは、向こう見ずな行為である。フィリピンの指導者は、手遅れになる前にそのことに気づくべきだ。

出 典:Financial Times ‘A high-stakes game in the South China Sea’ (October 21, 2016)
https://www.ft.com/content/df6d1c0a-96cc-11e6-a80e-bcd69f323a8b

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