ベストセラーで読むアメリカ

2016年12月2日

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■今回の一冊■
HILLBILLY ELEGY
筆者 J.D. Vance
出版社 HarperCollins

 無名の31歳の弁護士が書いた回想録が今、アメリカで売れている。本人も本書の冒頭で、本を書いて出版するに値する偉業を成し遂げた人間ではないと告白する。そんな人物が書いた回想録がなぜ、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに17週連続でランクインしているのか。最新の12月4日付ノンフィクション単行本部門でも4位につけている。

 ベストセラーとなった理由は、アメリカを二分した今年の大統領選挙と密接な関係がある。筆者はいわゆる「錆びついた工業地帯」(Rust Belt)と呼ばれるアメリカ中西部のオハイオ州の出身だ。トランプ次期大統領を支持する貧しい白人労働者の家に生まれ育った。自然と回想録の内容も、かつては鉄鋼業などで栄えた地域の荒廃、自分の家族も含めた白人労働者階級の悲惨な日常を描くものになっている。まさに、今年の大統領選でトランプ氏を支持した人々の日常を映し出す。

「中南米からの移民や黒人よりも悲観的」

『HILLBILLY ELEGY』
(J.D. Vance,HarperCollins)

 筆者は本書のなかで、母親が結婚・離婚を繰り返し、薬物中毒になって働かず、こどものころは近所の祖母の家に身を寄せて育った体験を語る。そうした恵まれない環境のなかでも、筆者は地元の高校を卒業して海兵隊に入隊したあと、オハイオ州立大学を経て、名門エール大学法科大学院を卒業し弁護士となった。自分で努力して貧困から抜け出した筆者は、白人労働者階級の苦境を政府や政策のせいにはしない。教育制度を見直す必要性や、自助努力の不足なども指摘する。

 しかし結果的に、日本人の読者にとっては、「トランプ支持者は、こんな人たちなんだな」と、納得できる内容になっている。例えば、白人労働者たちの悲惨さについて次のように指摘する。

 What is more suprising is that, as surveys have found, working-class whites are the most pessimistic group in America. More pessimistic than Latino immigrants, many of whom suffer unthinkable poverty. More pessimistic than black Amricans, whose material prospects continue to lag behind those of whites.

 「さらに驚くべきことに、白人の労働者階級はアメリカの中で最も希望を持てないでいる集団だという調査結果がある。中南米から移民してきた人々よりも悲観的だ。ラテン系の多くが考えれらないような貧困に苦しんでいるのにだ。さらに、黒人の米国民よりも悲観的だ。黒人のほうが金銭的な成功の面で白人に比べ立ち遅れ続けているのにだ」

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