2024年4月20日(土)

佐藤悦子 バランス・マネジメント

2010年3月30日

 たとえば宇宙の始まりといわれているビックバンによって、物質と反物質が作られましたが、もしもそれが同量であったなら、互いに打ち消し合って“無”になり、この世界は存在していなかったでしょう。今、私たちが存在しているのは、何かの理由によって物質のほうがほんの少しだけ多く残ったからだそうです。けれども、現在解明されている物理学の数式では、そのビッグバンの状況は説明することができないとのこと。

 これは、今はまだ「わかっていないこと」「見えていないもの」がこの世界にはたくさん存在することを意味します。

 物理学界の最近の定説である「宇宙11次元説」に基づいて考えるなら、私たちが今認識している3次元に時間軸を加えても4次元にしかならないので、“存在するのに”見えていないものがなんと、あと7次元もあるということになるのです!! 

 石野さんのお話では何年も前から仮説上では存在しているけれども実験では確認できていない“ヒッグス粒子”を発見することができれば、恐らくものすごいパラダイムチェンジが生じて、今見えていないものがバラバラと出てくるかもしれないというのです。思わず興奮せずにはいられません。

 さらにこの世界が今あるのは、存在する全ての物質のエネルギーがこれ以上変化しようがない状態で均衝を保っているからだとか。それはビッグバンの後の状態からの変化の中で奇跡的なことであると同時に、物質が持つエネルギーという視点で捉えれば、人間も建物も、机や椅子や食物など、この世に存在するあらゆるものは同等だということになるではありませんか。考えたこともなかったような話の連続に、私はひたすらびっくり仰天するばかりでした。

突き動かすのは“感動したい”という思い

 そんな物理科学者の方々が懸命に見出そうとしているものは、一体何なのでしょうか?ビックバンが起きた時、何が起こったために物質のほうが反物質に対してわずかに多く残されたのか? またどのような変化を経て、今の世界があるのか? そしてまだ見ぬその答えを見つけることによって、この先、宇宙がどのように変化していくのかを推測したいと伺いました。

 別の物理学者の方は「今のグローバリゼーションの世界の中の“儲かる、儲からない”という基準で判断するならば、私たちのやっていることに意味はないかもしれません。けれども価値の軸は、それだけではないのです。たとえば、なぜオリンピックのランナーたちは100mを9秒台で走ろうとするのか、恐らくそこに“感動”があるからですよね。人類の限界を超えていく様を目の当たりにすることによって、感動をしたいからではないかと私は思うのですが、我々物理学者が“その先”を見たい、知りたいというのは同じことだと思います」と、おっしゃっていました。

 「セルン」には世界各国からトップレベルの物理学者が集まり、各国が負担する予算によって研究が続けられています。そのため各研究の責任者の方は定期的にその目的や成果を、政府関係者や官僚にプレゼンテーションして理解を得なければなりません。

 「専門知識のない方へのプレゼンテーションは、相当たいへんなことではないでしょうか」と聞いてみたところ「そんなことはありません。自分のやっていることの意味を真剣に問い直す貴重な機会だと思っています」とのおこたえでした。

 そのプレゼンテーションではたった一回の失敗も許されません。何故なら、万が一国からの予算が承認されなければ、過去何年もの研究の積み重ねが、水の泡になってしまいます。重責を背に、ものすごい覚悟のもと、自分の信じる道を進んでいらっしゃるのだと、敬服しました。


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