韓国の「読み方」

2017年1月11日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

 もちろん民間団体が私有地に建てるのなら、政府はこれを止められない。合意は民間を縛るものではないから、そういった行為を問題視するのは難しい。米国やオーストラリアに住む韓国系住民の団体が建てる少女像についても同じことを言える。日本では、少女像と聞くとなんでもかんでも日韓合意と結びつける人もいるが、これは解釈の幅を広げ過ぎだ。

 しかし、国際条約によって保護される大使館や総領事館といった外交公館前の公道への設置を黙認するという行為は、明らかにアウトである。本来なら合意があろうと、なかろうと問題があるのだが、わざわざソウルの少女像に言及した合意がある中での黙認だ。「他の公館前には少女像設置を許さない」と明示されているわけではなくても、「合意の精神」もしくは「趣旨」に反するとしか言えない。

 だからこそ日本側で強い反発を呼んだのである。特に、大使館前の少女像撤去は簡単ではないと考えていた日本の専門家や政府関係者が受けたショックは大きかったように見える。韓国側の対応を見守るべきで、性急な要求をするのは逆効果にしかならないと説明する論拠を失ってしまったからだ。正直に言えば私も、釜山の少女像が結局建てられたというニュースを見た時には、失望というより強い脱力感を覚えた。

日本側の対抗措置に韓国メディアが驚いた理由

 日本側の対抗措置は、大使らの一時帰国だけではない。日本政府は、金融危機時に通貨を融通しあう「通貨スワップ協定」再開に向けた協議の中断など、経済面での措置にも踏み込んだ。経済協力にまで影響を及ぼすことが適切かどうかは議論の分かれるところだが、韓国側に「日本の本気度」を伝える効果はあったように見える。

 私見では、ソウルの少女像に対する日本国内の反感の強さは韓国側にきちんと認識されていない。私は昨年秋、来日した韓国メディアの記者たち(主として政治・外交担当)との意見交換会で、日本の世論は少女像問題に極めて強い関心を持っていることを認識しておいた方がいいと伝えたのだが、韓国人記者たちはピンとこないようだった。

 日本側の対抗措置に韓国メディアが驚いた理由の一端は、ここにありそうだ。日本側の関心をきちんとフォローしていないから、「なんでこんなに激しい反発が出るんだ?」と驚いた。だから、「(対露外交など)安倍首相の相次ぐ外交失敗に失望した右翼保守層を結集させ、国内の支持基盤を固めようという意図が見える」(聯合ニュース)、「トランプ政権の発足前に韓国が外交合意に違反しているという主張をして、韓米関係を引き離そうとする動き」(ニュース専門テレビ・YTN)、「韓国の国政空白と米国の政権交代という時期をにらんだ日本の奇襲」(朝鮮日報)などという解釈が堂々と語られるのである。

 もちろん安倍政権の支持層に向けたアピールという面はあるだろう。だが、それは最初から日韓合意に不満を持っている人たちに「韓国のやりたい放題にさせるわけではない」というポーズを見せるためと考える方が自然だ。

 いたいけな少女をモチーフにした像は感情に強く訴える力を持つ。それは韓国世論に対してだけではない。日本世論を考えても、全く逆のベクトルではあるものの極めて強いインパクトを持つようになっている。韓国側がそのことをもっときちんと認識していれば別の展開があったろうと思われるが、現実はそうならなかった。非常に強い日本の対抗措置が、そのことを韓国側に考えてもらう契機になってくれればと思う。

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