チャイナ・ウォッチャーの視点

2017年1月14日

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高田勝巳 (たかだ・かつみ)

株式会社アクアビジネスコンサルティング代表

株式会社アクアビジネスコンサルティング 代表取締役。拓殖大学で中国語を専攻し、1984年より1986年まで中国の遼寧大学、北京大学での留学を経て、1987年に当時の三菱銀行に入行。1993年より同行上海支店開設のために上海に赴任。1998年に同行を退職後、上海で独立し、それ以来上海を拠点としたコンサルタントとして活躍。2002年より現職。この間、多くの日中間のビジネスにコンサルタントとして関与、最近は日系企業の顧客以外にも中国企業の対日投資並びに技術導入も支援している。中国の第一財経テレビ、香港のフェニックステレビの時事討論番組のコメンテーターとしても活躍している。

 私は、上海をベースに、中国、日本、米国に係るビジネスを展開しているので、トランプ次期大統領の動向と今後についても注視している。昨年、メキシコの自動車産業を狙ったお客のメキシコ進出を支援したばかりだったので、トランプ氏が、トヨタのメキシコ進出を牽制する発言をしたことはショックだった。まだまだ様子を見ないとわからないが、こんなことになるのであれば、米国進出を優先したほうが良かったか、とも思いを巡らしている。

反トランプデモ ©️Mirei Sato

 実は最近、オランダの研修会社の友人に頼まれて、企業向けのネゴシエーション研修の講師をしている。日本では、ハーバード流の交渉術などが有名だが、主に欧米社会におけるネゴシエーションの理論と実践の経験に基づいたスキルを磨く研修だ。筆者の上海における二十数年の経験を是非中国と日本のビジネスパーソンたちと共有してくれないかという友人の熱心な勧めがあり、それであれば是非ということで始めた。

 その中で、「アンカリング効果」というテクニックがある。交渉において、自ら能動的に自分が望む期待値を先に言ってしまうということだ。売買交渉、条件交渉において、価格や条件は相手に先に言わせたほうがいいと考える人が結構多い中で、実は先に言ってしまったほうが、自分に有利にその後の交渉を運ぶことができるものだ。それがあまりにも非現実的なものであれば効果はないが、相手が少しでもあり得るかもと思えるものであれば、その後、交渉がどうしてもその提示された期待値に引きずられるというものだ。

 どこまで膨らませて言うか、絶妙なバランス感覚が必要となる。

 トランプ氏の一連のツイッター発言は、まさにこのテクニックの応用なのではないかと思える。これまでの世界の常識とか基準から言えば、「かけ離れている」「ありえない」と思えるものであっても、もしかしたらトランプ氏であれば「してしまうかもしれない」と世間に思われたら、このアンカーは効果を示すことができる。

 こういう意味で、トランプ氏のつぶやきは、ここまでは効果を示しているのではないだろうか。これはあくまでも駆け引きなので、ここで大事なのは、トランプ発言の合理性よりも、もしかしたら一部でも実現してしまうかどうかという印象の部分となる。

 また、こうした丁々発止のやり取りは、日本人よりは、中国人のほうがより得意である分野でもあると思う。トランプ氏が仕掛けたアンカーに対し、私は、中国がどのように反応するか注視しており、今後のネゴシエーション研修の事例研究にできたらと考えている。アンカーに対する対策としては、アンカーを仕掛けた相手に、別のアンカーを仕掛けるということがある。もしかしたら、最近の中国の軍事的な動きはそうした狙いのもあるのかもしれない。

 一方、メディアから伝わるトランプ氏の政策、方針について、私は以下の点でいくつかの矛盾を持っていると考えており、こうした点が、今後どのように進展するのか注視している。

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