チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年4月21日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 間もなく開催される上海万国博覧会は、2008年の北京オリンピックに続く国際的イベントとして、中国が威信をかけて取り組むイベントだ。

7000万人が押し寄せる?

 だが4月上旬、日中ジャーナリスト交流会議のために来日した中国のメディア幹部たちにこの話題をふっても意外なことに反応は芳しくなかった。なかには「誰も興味を持っていない」とはっきり言う者までいて驚かされたのだったが、メディアの冷めた反応とは裏腹に前売り券は「来場者数の目標である7000万枚の9割が売り切れた」(同前)というから開催後は盛り上がるのかもしれない。

 それにしても7000万人とは途方もない数字である。結果的に成功とされた愛知万博での来場者数が約2200万人。それでも混雑は激しく人気パビリオンをはしごすることは難しく不満は残った。その事情を考えれば、7000万人の人間をさばく大変さは想像に難くない。

万博で試される中国の警察力

 例によって開催間近になり、建設の遅れを指摘する報道が日本のメディアでも見られるようになっているが、おそらく本当に心配されるのはハード面ではなく、むしろこの人数をいかにコントロールするのかのソフト面になることは疑いない。万一、開催間もなく混乱が起き、人身事故にでも発展しようものなら、万博の性格はたちまち一変し、メディアのネガティブ・キャンペーンの餌食となることは避けられないからだ。

 そう考えたとき重要になるのは、言うまでもなく警察力である。

 北京オリンピックに始まり、建国60周年のイベントを経て上海万博へと3年続く流れは、一方では共産党が内外に向け、安定とガバナンスの堅牢さをアピールする意味も込められていたと考えられるのだ。

警察力が政権安定にとって重要

 そしていま、奇しくも中国にとって警察力こそが経済発展と同じく政権安定にとって大切な一翼となってしまっているのだ。

 08年の世界金融危機を発端に、中国は財政出動に頼る経済発展へとその体質を大きく変貌させた。これはいわゆる緊急措置だったのだが、この体質からの脱却は、彼らが掲げた「保八(8%の成長)」を達して以降も出口に向かう様子が見られないことから、容易でないことは明らかだ。そして最大の問題は、この急場しのぎ的な経済発展が、中国社会にあった格差問題を急速に促進しているという事実だ。つまり、格差の拡大という副作用がはっきりしていても、中国は特効薬を手放せないという状況が続いているのだ。

 この点については、3月に開催された全国人民代表大会(以下=全人代)でもさんざん議論されたところでもある。

国防費と変わらない警察関連予算額

 そして、今後の中国を占う上で重要になるキーワードは「維穏的成本」(安定のためのコスト)である。

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