チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年4月21日

»著者プロフィール
著者
閉じる

富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 この「維穏的成本」は、いま知識人を中心に中国の国内でも活発に議論される問題でもあるが、外から中国を見たとき、それが中国にとって難題であることが最も顕著に読み取れる変化こそ、警察予算が急拡大していることなのだ。

 日本では専ら国防費の肥大化だけが話題になるが、実は中国の警察関連予算はすでに5140億円(今年の全人代における予算草案)に達し、実行ベースで国防予算とほとんど変わらない額にまで膨らんできている。このサインを見逃してはならないのだ。

公安だけじゃない「協警」って?

 全人代の開会中、北京で会った司法関係者は、「今年の両会(全人代と全国政治協商会議)開催に際し70万人の保安要員を動員しなければならなかったことこそ社会安定のコスト」とこう語る。

 「いま中国各地では、警察の手が足りなくなり正規の公安に加え『協警』と呼ばれる組織の確立が進んでいます。彼らは威張り散らすため『二狗子』(二匹目の犬)と呼ばれ、人々から忌み嫌われ、新たな問題にもなっています。またその一方では、デモなどを事前に防ぐために、力で押さえつけるだけでなく不満を持った人々に対してお金を配って懐柔するような予算までつけているのです。これが国家に重くのしかかっていることは間違いないでしょう」

中国は悪循環をいつまで続けるのか

 こうした問題の背景になっているのは、治安の悪化だ。全人代に先駆けて社会科学院が発表した青書によれば、09年10月までの統計で刑事事件は対前年比10%の増加、公安事件に関してはさらに20%増加したという結果が示されている。

 この現実を持って口の悪い者の間では「中国では経済発展をも上回るペースで犯罪が増加している」と揶揄される始末だ。

 加えて党は、ネット世論の誘導にも予算をつけ、政府の政策に好意的な書き込みをする「ネット評論員」を養成している。しかし、一文を書き込むごとに五角(約6.5円)を受け取る行為の卑しさから、彼らには「五角党」という蔑称がつけられ、社会ではかえって反発を招くという逆効果を生んでしまっている。

 昨年すでに数兆元の財政赤字に陥り、今年はさらに1兆500億元の赤字が見込まれる中国。この厳しい財政事情のなか、治安面でのこの高コスト体制は財政出動型の発展を続ける限り加速されていく。こんな悪循環を中国はいつまで続けられるのだろうか。

 

※次回の更新は、4月28日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る