2024年4月25日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年5月12日

 つまり、中国にとってチベットは「虎の子」の地なのだ。世界各地で法外な条件で鉱物資源を買い漁り、世界の資源利権の覇権を握らんとする一方で、チベットの鉱物資源については外国勢力の目から覆い隠して内部留保し、価値を高めようとの将来展望をもっているのである。こうした戦略の下、都合のいい場所のみを「エコ高原リゾート」に変貌させて、一見美しいイメージでお人よしの外国人観光客を惹き付け、金を落とさせ、世界の人々の目を陽動するというやり方は、中国共産党お得意の宣伝戦略の王道である。

玉樹ならぬ、ケグドゥの真の重要性とは?

 中国政府が「金のなる木」のひとつとしか見ていないケグドゥは、チベット人にとっては「心の要所」のひとつだといえよう。被災地には、チベット仏教の宗派のうち最古のサキャ派、あるいはカギュ派の寺院があった。また、ケグドゥは、清朝末期、ダライ・ラマ13世側との対立から、中華民国に亡命したパンチェン・ラマ9世の入寂の地でもある。

 パンチェン・ラマとは、チベット仏教においてダライ・ラマに次ぐ存在といってもいい高僧だが、9世の後の10世は中国共産党の支配下で艱難辛苦の生涯を送った挙句、不審死を遂げ、その後の11世については、チベット側、中国側がそれぞれ認めた「2人のパンチェン・ラマ」問題が今なお未解決のままで、チベット人の心に刺さった棘となっている。

 さらにケグドゥには、カトゥジョ、ガチェンといった、チベット古来の土俗信仰の「地の神」を祀った巡礼の地もある。そのためかこれまでケグドゥ周辺には地震など起きたこともなかったのだとか。

 「中国共産党政権の支配下となってから、地の神が住むところまで乱開発したがために、今回のような大地震が起きたのではないか、と現地の人々は囁き合っているのです」

 ダワ・ツェリン氏は故郷の現状についての話をそう締めくくった。氏の故郷への思いはいかばかりか。私たち日本人が、メディアから騒々しく流れてくる「上海万博関連情報」にのみ目を奪われていてよいはずはないのである。

※次回の更新は、5月19日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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