前向きに読み解く経済の裏側

2017年3月6日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 ドルの値段は、変動相場制ですから、毎日動きます。場合によって大幅に変動して輸出入企業などに大きな影響を与えます。「ドルの値段は100円である」と法律で決めれば(これを固定相場制に復帰すると呼びます)為替リスクが消えて大変便利だと思うのですが、なぜそうならないのでしょうか。今回は為替レートが変動相場制である理由を考えてみましょう。

 最初に経済初心者用の解説を載せました。一般の方は飛ばしていただいても大丈夫ですが、復習のために一読していただければ有り難いです。

(iStock)
 

日米の物価上昇率が違うから固定相場制は無理……経済初心者用解説

 日本のペンが1本100円、米国のペンが1本1ドルだとします。為替レートが1ドル100円であれば何も起こりません。しかし、米国の方が日本よりもインフレ率が高いので、数年後にはペン1本が日本で100円、米国で1.1ドルとなるでしょう。

 そうなると、米国人が日本からペンを輸入するようになります。銀行で1ドルを100円に替え、日本でペンを買い、米国に持ち帰れば、1ドルでペンが手に入るからです。米国のペン会社はペンが売れなくなり、不満を表明します。「日本が固定相場制なのはケシカラン! 米国大統領は、日本政府に固定相場制を廃止させろ。そうしないと次の選挙で投票してやらないぞ!」と。

 ペン以外の物も日本から米国に輸出されるようになるので、米国大統領が日本政府に圧力をかけることになるかもしれません。圧力に屈して固定相場制の法律を廃止するかも知れませんが、そんなことなら、最初から固定相場制の法律など作らない方がずっとマシです。

 日本政府には、米国政府のみならず、市場からの圧力もかかります。日本から米国への輸出が増えると、米国人のドル売り注文が増えますから、日本政府はそれを買う必要があります。

 固定相場制という法律は、「ドルの売り手、買い手が見つからない時は、日本政府が取引に応じる」というものだからです。もしも、日本政府が取引に応じないと、どうしても円が欲しい外国人などが大変困ることになりかねません。たとえば「今日が円建て負債の返済期限だったのに、円が手に入らずに返済できなかった」ということも起こり得ます。そうした事態を避けよう、というわけです。

 日本政府は巨額のドルを持つことになり、不安になります。「こんなに巨額のドルを持っていて、もしもドルが値下がりしたら、大損してしまう」と考えるわけです。

 政府が不安に感じていると、世界中の投機家からドル売りの注文が入ります。投機家としては、ドルを売っておいて、何も起きなくても、特に損はありません。一方で、万が一固定相場制が廃止になって、ドルが値下がりしたら、安値でドルを買い戻せば大儲けできます。つまり、投機家にとってはリスクが小さくて大儲けが狙えるチャンスなのです。

 こうなると堪りません。日本政府には、米国の輸入者に加えて世界中の投機家からドル売り注文が来るのですから、恐怖心は募るばかりです。しかも、将来にわたって事態が改善する道筋が全く見えないのです。

 恐怖に耐えられなくなった日本政府は、固定相場制を廃止せざるを得ないのです。

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