ウェッジ新刊インタビュー

2017年4月3日

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毛沢東によって「両弾一星」(核、ミサイル、人工衛星のこと)のスローガンが打ち立てられて以来、中国は宇宙開発に力を注いできた。その努力は結実し、人工衛星、ロケット、有人宇宙飛行、月探査など、さまざまに展開しつつある。だが今、その技術と経験は、アメリカを凌ぐ大国になるという「中国の夢」を実現する手段に使われるのではないか、という懸念が強まっている。中国の宇宙開発の経緯や目的をまとめた新著『中国、「宇宙強国」への野望』の著者で、科学ジャーナリストの寺門和夫氏に、中国の宇宙開発の実態や目論見、日本にとってのリスクなどを聞いた。

寺門和夫(てらかど・かずお)
科学ジャーナリスト、一般財団法人日本宇宙フォーラム主任研究員。
株式会社教育社で科学雑誌『ニュートン』を創刊。長年にわたって科学分野の取材を続けてきた。主な取材分野は、宇宙開発、天文学、惑星科学、分子生物学、ゲノム科学、先端医療、地球環境問題、エネルギー問題。日本および海外の科学者や研究機関に幅広いネットワークをもつ。テレビ、ラジオ等メディアへの出演も多数。

中国の宇宙開発の実力は?

編集部:現在、中国政府は宇宙における開発を強力に推進しており、月着陸を見据えた次世代型有人宇宙船計画や独自の宇宙ステーション「天宮」計画を公表するなど、中国共産党・軍主導で加速を続けているという印象です。寺門さんが書かれた新著『中国、「宇宙強国」への野望』には、中国の現状や宇宙開発の推進に舵を切ることになった歴史的経緯が描かれていますが、いまこのような本を書かれたのはなぜでしょうか。

中国の宇宙開発の経緯と現状を調査し、『中国、「宇宙強国」への野望』にまとめた寺門和夫氏

寺 門:中国は日本の隣国で、距離的に近いわけですが、宇宙開発についてはほとんど情報がありません。

 日本はずっとアメリカと宇宙開発を行ってきたし、国際宇宙ステーション計画がスタートして以降は、ロシアや欧州とも一緒に開発を行うようになってきました。だから米欧露については、情報も人的交流もあります。私自身も、NASAやソ連の宇宙開発については何度も取材をしたことがあります。しかし中国と日本の宇宙業界については、人的交流や共同計画がなく、ほとんど実態が分からないのです。

 一方、近年の中国の宇宙開発は目覚しいものがあります。「天宮2号」という宇宙ステーションの実験モジュールを打ち上げ、有人宇宙船「神舟11号」で2人の宇宙飛行士を打ち上げてドッキングし、約1カ月の宇宙空間での中期滞在を行うところまできている。その延長線上で、今後中国が独自の宇宙ステーションを作るという計画を明らかにしています。

 将来、宇宙開発計画において、日本と中国がどのような関係となるか分かりませんが、私たちが軍事的脅威を含めて中国の宇宙開発がどのようなものなのかを知っておくことは、必要なことではないでしょうか。たとえば開発の経緯や目的、組織体制、人物、計画等々についてです。

 そのような問題意識から、私はしばらく前からこの分野の資料を集め、独自に分析を続けてきました。以前から新聞やネットからは断片的な情報は伝わってきていましたが、全体像をつかむことは容易ではない。そこで、体系的な理解がしやすいように調査の成果をまとめたのが本書です。

編集部:中国の宇宙開発については、一般に入手できる資料も少ないと言われ、彼らがどのような意図で何をしようとしているのか、開発体制を含めてあまり知られていませんでした。中国の宇宙開発の現状を、かんたんに教えてください。

寺 門:宇宙開発というものは、大きく3つの要素に分けることができると思います。

 1)人工衛星や打ち上げロケットの開発・運用
 2)人類が宇宙空間に出ていき、フロンティアを開拓する有人宇宙開発
 3)月や惑星等の天体、宇宙空間の調査を含めた宇宙科学研究

 (1)については、中国は非常に積極的です。地球観測衛星、気象衛星、通信衛星、偵察衛星など、たくさんの衛星を打ち上げて運用してきた実績があります。そうした実績を積み重ねることで、中国は今、米露に比肩する宇宙大国の1つになりつつあります。

  (2)について。中国の有人宇宙計画が始まった1992年は、毛利衛さんがスペースシャトルで宇宙を飛行した年なんです。日本ではそれ以前から宇宙飛行士を選抜し、アメリカのスペースシャトルで宇宙飛行をする計画を立ててきました。しかし中国は、1992年から始めて自国で宇宙船を作り、宇宙飛行士を打ち上げる計画を進めてきたのです。ステップバイステップで着実に歩みを重ねているといえるでしょう。

 現段階では、中国はすでに有人宇宙飛行および乗組員の帰還までをクリアしており、2018年からは中国独自の宇宙ステーションを建設して、宇宙飛行士が長期滞在を行う予定です。

月面に着陸した嫦娥3号(写真:ロイター/アフロ)

  (3)については、月の探査活動を進めています。「嫦娥(チャンエー)」という探査機を打ち上げて、月面着陸させることに成功していますし、2017~18年にかけては、月の石を持ち帰るサンプルリターンのほか、月の裏側に着陸するという、アメリカやロシアも行ったことのないミッションを計画しています。「中国版アポロ計画」を立てているといえるのではないでしょうか。そして、こうした動きを支える動きとして、長征5号という、巨大ロケットを打ち上げました。将来的には、アポロ計画で使われたサターン5型ロケットに匹敵する「長征9号」という超巨大ロケットを作り、有人月飛行をもくろんでいます。

 つまり、(1)~(3)までを強力に推進しつつ、着実に成果があがってきているのが現状です。さらには、ビジネスとしての商業地球観測衛星なども打ちあがるようになりました。

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