中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年6月8日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 鳩山政権が交代し、新たに菅政権が発足した。菅新総理は、いままで円安やデフレ克服を言ってきたことから、日本経済にとって鳩山総理よりもプラスとの見方がある。また、増税と歳出拡大で経済成長につなげる考え方も、経済成長や社会保障充実を図りつつ財政再建をも果たすものであり、実現すれば日本経済に大きなプラスとなる。

新政権が目指す「第三の道」

 個別策として、このような考え方には一理あり、ぜひ実現を期待したい。しかし、日本経済をどう立て直すのかについては、あわせてもっと根本的な理念を示すことも必要だ。それは、国民の豊かさをどのように維持向上させていくかについての大きな理念を示し、国民との共有を果たす必要があるということだ。

 確かに、「コンクリートから人へ」が民主党の示す大きな経済政策の方向だ。しかし、それは単に予算配分を公共事業から子ども手当などに変化させれば実現するものではない。人を支える経済政策の理念は何かについてはいくつもの観点や視点があろうが、子ども手当といった単発の政策や種々の個別策を一緒くたにしたマニフェストではなく、もっと総合的な考え方こそ求められている。

 社会保障を充実させて国民の安心を広げるとの福祉国家的な理念にもとづいて、雇用などのセーフティネットを強化し、医療・介護、家族政策や教育支援などをさらに充実させるのもひとつの大きな方向だ。あるいは、国民所得を上げていくためには雇用賃金の改善が不可欠であり、それを産業政策や新産業育成等によって潜在成長率を上げる産業立国的なやり方で実現するとの考え方もあろう。

 ちょうど、6月には新成長戦略が確定する。その中核となる経済産業省の「産業構造ビジョン2010」を見ると、日本経済の課題を洗い出した上で「アジア拠点化総合戦略」や「法人税改革」「収益力を高める産業再編、新陳代謝の活性化」などの政策が明記されている。

 高い法人税率や企業の低収益率などは主要国に劣後しており、これらは政権に関係なく早急に改めないと国民の雇用や所得はジリ貧になりかねない。したがって、新成長戦略は日本経済生き残りと国民の豊かさ維持向上には必須の経済戦略ということができるが、「コンクリートから人へ」の方向づけと今回の新成長戦略を合わせると、大きな経済理念は次のように集約できそうだ。それは、社会保障充実を通じて人を大事にするとともに、企業と産業活性化によって経済成長かさ上げにも注力する方向だ。

 実は、この方向はイギリスのトニー・ブレア元首相が打ち出した「第三の道」に通じるものがある。すなわち、国家が社会の公平を確保しつつ市場経済も重視する考え方だ。菅新政権が目指す大きな経済理念の枠組みがトニー・ブレア元英首相の言う「第三の道」であるとすれば、それは市場主義偏重でもなく、国家が経済に過度に関与することでもない、バランスをとった考え方といえる。

「第三の道」らしい民間需要創出を図れ

 「第三の道」経済路線を前提にすると、今後の経済政策について求めたい点がいくつかある。ひとつは、社会保障の充実だけではなく産業・企業の競争力向上にも全力を挙げてもらいたいことだ。いまの日本ではいずれも中途半端となっている。子ども手当が支給されても待機児童が数多いなど国民が安心して暮らせる社会の整備はなお途上だ。一方、累次の経済改革はあっても、農業を始めとして多くの産業分野や既得権を守る規制が残っているし、経済合理性を余り顧慮しない規制もなお多い。

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