2024年4月27日(土)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年6月8日

 菅首相は、国家戦略担当相だった昨年末、「新成長戦略の基本方針」の中で「新たな需要の創造」による経済活性化を示しているが、公的支出増による需要創出ばかりではなく、企業・個人主導による需要の創造にも大いに力点を置いてもらいたい。

 ちなみに、「新成長戦略の基本方針」では、公共事業・財政頼みの「第一の道」や行き過ぎた市場原理主義の「第二の道」ではなく、100兆円超の「新たな需要の創造」により雇用を生み、国民生活の向上に主眼を置く「第三の道」を進む、と記されている。この「第三の道」は、トニー・ブレア元英首相が主唱したイギリス版「第三の道」に重なっているようにも見える。そうであれば、政府がもっぱら公的支出増で需要を創出しては、市場経済も重視するイギリス版「第三の道」の考え方には馴染まない。

 しかも、国民の大多数の雇用と所得を直接支え、法人税や企業の社会保障負担を通じて国家の財政や社会保障制度までも支えているのは企業だ。だから、法人税引き下げや規制緩和などを通じて企業の競争力、すなわち収益力と雇用吸収力を上げることが国民の豊かさに直結していることを見落とすわけにはいかない。

 なお、競争を通じて企業の新陳代謝を図ることも重要と、この際付け加えておきたい。弱い企業を支えることは必要だが、やり過ぎて財政のお荷物になっては本末転倒だ。セーフティネットは基本的に人に対してあるもので、企業に対してあるものではないことは当たり前であり、企業を人と同じと曲解してはならない。

増税に真正面から向かい合え

 今後の経済政策に求めたい第二の点は、増税と真正面から向かい合うことだ。「第三の道」を通じて社会保障の充実と企業の活力増を図り、国民の将来に対する安心と経済活力の回復に結びつけようとするならば、財源問題は避けて通れない。とくに、社会保障政策が財政赤字で行われるかぎり、政策に持続性はなく、国民に安心感が広がるということも考えられない。

 6月には、新成長戦略と並んで財政健全化の道筋を示す中期財政フレームが示される予定となっている。すでに示されている論点整理では、財政再建の工程表ややり方など財政運営戦略のイメージが示されており、残るは消費税増税を含めた実行への決断となっている。

 確かに、7月の参議院選挙を控えて、国民に痛みを与える増税は示しにくい。しかし、「第三の 道」路線を標榜するならば、財政再建には本格的に取り組んでほしい。そうであってこそ、菅新総理が示す増税と歳出拡大で経済成長につなげる考え方が大いに生きてくるし、なにより将来の日本の財政破綻回避が経済と国民にもたらす果実は極めて大きい。

 今年1~3月期の実質GDP成長率は前期比年率で+4.9%の高成長となり、米国の+3.0%、ユーロ圏+0.8%を大きく上回った。この日本経済の回復を見ると、日本版「第三の道」経済路線を発動するには悪くない時期に入りつつある。しかも、背景には中国経済の高成長やエコカー・エコポイント効果などの追い風もある。追い風を利して、ぜひ果断に一層の国民の豊かさ実現を目指した経済政策を実行してもらいたい。


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