チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年6月16日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 「いまメディアが大騒ぎしているフォックスコン(富士康)問題をめぐって、経営者にとって頭の痛い動きが広東省で持ち上がってきています。もともとの問題は、フォックスコンの工場で、若い労働者の自殺が相次いだことでした。わずか半年間に16人という数の異常さから報道がヒートアップ。メディアは当初、無縁仏を埋葬する場所に建てた工場の呪いが原因だとか、『若者が弱くなった』ことこそ原因と、世代論にまで広げて犯人捜しに躍起になりましたが、いずれにしても中国の出稼ぎ労働者の苛酷な環境にもスポットを当てざるを得なくなっていきました。もはや広東省を皮切りに、これまで手を尽くして低く抑えてきた労働者の報酬が一気に跳ね上がってしまうことも避けられない。進出企業にとっては、ちょっとやっかいな事態でしょう」(北京の外資系金融機関に勤める現地のアナリスト)

労働者の自殺未遂問題で賃金倍増?

 未遂も含めて30件ほどの自殺問題が起きたのは、〝世界の工場〟・中国を象徴する広東省でのことだ。フォックスコンは、EMS(電子製品の製造委託サービス)で世界首位という圧倒的な地位を築いた鴻海精密工業(本社は台湾)の傘下企業だ。中国・深圳で40万人を雇用する巨大メーカーで、深圳市長でさえ電話一本で駆けつけると言われるほど地元に大きな影響力を持つとされる。日本人には馴染みの薄い名前だが、米アップルのiPadの生産や日本の任天堂やソニーからも生産を請負っている企業だ。

 それだけに問題は中国にとどまらず米アップルが重大な関心を示し、Wiiの生産を一部委託している任天堂も労働環境調査に独自に乗り出すと報じられた。

 そして問題解決策の一つの手段として米アップル社が提案したのが、労働者報酬の倍増だった。

 「自殺の原因は何であれ、労働環境の厳しさがこれほど報じられれば、その改善に動かざるを得なかったのでしょう。同じ時期、広東省ではもう一つの労働問題が持ち上がっていました。ホンダの部品工場でのことです。こちらはフォックスコンとは違い単純な賃金闘争だったのですが……」(同前)

 報道によれば、ホンダの工場は約20%の賃上げで幕引きを図り、フォックスコンは前述のように賃金を倍増させる方向で検討が進められている。2つのケースとも、経営側が早い段階で労働条件改善へと傾いたのだった。

作業中の事故が絶えない
腕や指を失った労働者たち

 背景には、「経営側には、労働者の賃金を手を尽くして低く抑えてきたことで、そろそろ臨界点を迎えるのでは、という危惧を常に抱えてきた」(同前)ことがあるという。

 経済官庁の官僚も同じように語る。

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