シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年5月10日

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湯之上隆 (ゆのがみ・たかし)

微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を修了後、日立製作所に入社。以後16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センタ、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士授与。現在、半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリスト。微細加工研究所所長。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)など。

 東芝メモリの売却に大きな影響を及ぼしているのが、日本政府が持ち出してきた外為法である。本稿では、外為法が、東芝や東芝メモリにとって何をもたらすかを論じる。結論から言えば、外為法は、東芝メモリにとっても、東芝にとっても、良いことは何一つない、無意味な愚策である。

2月中旬以降、風向きが変わった

 東芝メモリの買収を巡っては当初、日本政府は無関心だった。例えば、世耕弘成経産相は1月20日、「経産省として(東芝に対する)支援策など対応を検討していない」と述べた(ロイター1月20日)。

 ところが、2月17日には、「(東芝メモリの技術は)わが国が保持していかなければならない技術で、雇用が維持されていくことも重要だ」と前言を撤回するような発言をした(産経新聞2月17日)。

 そして、とうとう3月23日には、菅義偉官房長官が「(東芝メモリは)グローバルに見ても高い競争力があり、雇用維持に極めて重要。情報セキュリティーの観点からも重要性が増す」と発言した。

 そして同日、日本政府は、「中国、台湾、韓国企業による買収は、外為法違反として許可しない」という方針を打ち出した(日経新聞3月23日)。

外為法とは何か

 外為法とは、日本や国際社会の平和・安全を維持するために、特定の貨物の輸出入、特定の国・地域を仕向地とする貨物の輸出などを制限する法律である。

 過去の事例としては、1987年に起きた東芝機械ココム違反事件が良く知られている。東芝機械は1982年から1984年にかけて、ソビエト連邦(当時)へ工作機械8台などを輸出した。ところが、これらの技術が、潜水艦のスクリュー音を減らすための新型羽根の開発、製造に利用されていることを米国防総省筋が調査し、ココム(対共産圏輸出統制委員会)の規制に違反していることを掴んだ。

 警視庁が捜査した結果、外為法違反により東芝機械幹部2人が逮捕され、東芝機械と共に起訴された。裁判の結果、東芝機械が罰金200万円、幹部2人は懲役刑となり、親会社である東芝は佐波正一会長および渡里杉一郎社長が辞職した。

東芝メモリの技術は外為法に抵触するか

 では、東芝メモリの何が外為法に違反するのか? 

 日本政府の主張によれば、『東芝ではサーバーなどに使う記憶装置「ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」の関連技術が対象になる。一部SSDにはデータ流出を防ぐ暗号化機能が付く。政府は外資なら国・地域を問わず審査する意向だ。特に中国への流出を警戒。SSDの基幹部材であるNAND型フラッシュメモリーも「各国の軍装備品に広く使われ、細工されれば致命的」(経済産業省幹部)』であるという(日経新聞3月23日)。

 しかし筆者は、日本政府が突然持ち出してきた外為法違反はまったく意味がなく、それどころか、東芝メモリや東芝にとって大きなマイナスになると考えている。

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