シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年4月19日

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湯之上隆 (ゆのがみ・たかし)

微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を修了後、日立製作所に入社。以後16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センタ、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士授与。現在、半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリスト。微細加工研究所所長。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)など。

中国のXMCが3次元NAND量産を発表

 「中国への技術流出を何としても阻止しなくてはならない」。

 東芝メモリの売却に関して、政治家、官僚、ジャーナリストらが口を揃えてこのようなことを言う。しかし、これはまったく的を射ていない。というのは、本稿を読んで頂ければ分かることであるが、中国には既に3次元NANDの技術があるからである。つまり、東芝メモリから流出する技術などは無いに等しいのである。

 米半導体業界誌のEE Timesは3月26日に、「中国XMCが3D NAND工場建設ヘ」という記事を報じた。それによれば、中国のファンドリーXMCが2016年3月末に3次元NANDの新工場建設に着手し、18年に量産を開始、総額2.7兆円を投じて月産20万枚を目指すという(後に30万枚に訂正された)。

 XMCは現在、米スパンジョンの依託を受けて、NANDフラッシュとはちょっとタイプの違うNORフラッシュという半導体メモリを月産2万枚規模で生産している。そして、3次元NANDの技術は、米スパンションと共同開発する計画である。また、XMCは紫光集団の傘下に入ることになり、長江ストレージと呼ばれることになったが、本稿では旧称のXMCと呼ぶことにする。

 私はXMCが3次元NANDに参入することに対しては、否定的な見解を示してきた。というのは、「中国人は半導体製造に向いていない」と考えている上、XMCは、2次元NANDもつくったことがないからだ。

 2007年に学会発表し、2013年夏に3次元NANDの量産を宣言した東芝ですら、2016年3月時点で僅か5.4%しかつくれていないほど難しい技術なのだ。いくらスパンジョンが協力するといっても、新興企業がたった2年で量産できるほど、3次元NANDは甘くない。

 またスパンションへの不信感もある。スパンションは、米AMDと富士通の合弁会社として1993年に設立された。日本法人スパンション・ジャパンはリーマンショックの余波で2009年にあっけなく倒産した。ある知人からは、「<スパンション技術>と書いて<立ち上がらない>と読む」という格言があることを教えてもらった。それ程、スパンションは技術的に頼りない半導体メーカーであると認識していた。

 以上から、いくら中国が2.7兆円も大金を投じようとも、XMCとスパンションが3次元NANDを量産できるはずがないと、はなから馬鹿にしていた。ところが、これらを覆して、XMCが3次元NANDの檜舞台に躍り出るかもしれないことが明らかになった。

XMCが立ち上げる3次元NANDの技術とは

 XMCの事情を良く知る関係者から、驚くべき情報がもたらされた。その内容を説明する(図1)。

①30年以上前の大昔に、ゲートにアルミニウム(Al)、絶縁膜にシリコン窒化膜(SiN)とシリコン酸化膜(SiO2)の積層膜を使うROM(Read Only Memory)と呼ばれる半導体メモリが存在した。この構造を、Metal-SiN-SiO2を略してMNOSと呼んだ。

②1990年代に富士通が、MNOSの延長線上にある、SONOSと呼ぶメモリを開発した。SONOSは、多結晶シリコン(PolySi)をゲートに使い、SiO2、SiN、SiO2の3層の絶縁膜から形成されていた。SiO2でサンドイッチされているSiNには欠陥準位があり、ここに電荷を捕獲することにより、メモリとして使えることを富士通が見出した。

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