民主党のマニフェストの項目から、「公務員制度改革」が消えた。今回の参院選マニフェストで公務員制度について触れられているのは、第1項「無駄づかい、行政刷新」のなかである。内容はこうだ。
・天下りの温床となっている各種公法人について、廃止を含めた改革に取り組みます。
・政治家、幹部職員などが率先し、国家公務員の総人件費を2割削減します。
・幹部職員について、実質的な降格人事を可能とするとともに、民間登用を進めます。
つまり、キモは「天下り禁止」と「人件費2割削減」と「降格人事」であり、その政策目的は「ムダづかい撲滅」なのである。霞ヶ関の幹部は国家のムダだ、と言っているに近い。
2009年の衆院選向けのマニフェストでは、少し様子はちがった。
2009マニフェストの第4項は、「公務員制度の抜本改革」。主な内容は、内閣の一元管理による新たな幹部職制度や能力・実績に応じた処遇、天下りの斡旋全面禁止、国家公務員の総人件費を2割削減である。そしてその「政策目的」は、
・公務員に対する信頼を回復する
・行政コストを適正化する
・労働者としての公務員の権利を認め、優秀な人材を確保する
であった。建前だったかもしれないが、目的は天下りと人件費だけにとどまらず、一応、明治以来の公務員制度を原点から立て直すことが想定されていたのである。
しかし、鳩山政権で、公務員制度がしっかり議論された形跡はない。国家公務員法改正案は、国会に提出されたが、鳩山首相の辞任のあおりをくって、郵政改革法案などといっしょに廃案となった。公務員制度改革のベースとなるはずの法案ですら、政権内でしっかり議論されず、選挙を目前にすれば葬り去られ、国民受けの良さそうな公務員たたき(天下り禁止と人件費削減)だけが残るというのが、この間の実態であった。
これは決して民主党だけの問題ではない。自民党は国家公務員制度改革という項目を残してはいるものの、それより天下り根絶を前面に押し出している。みんなの党は、公務員人件費削減と天下り根絶が第一の結党目的だから、民主党より過激だ。与野党ともに、手間暇かかる制度改革などやる気はなく、政治家は自分のことを棚にあげて公務員たたきに熱中している。
月刊「WEDGE」では、2009年10月号特集「その『脱官僚』はうまくいかない」(←クリックすると記事が読めます)で、民主党が政治主導で国家のあり方を変えるというなら、課題は2つ、「民主党内の利害調整」と、「公務員制度の再構築」であると論じた。
それは、政治主導の意味を十分吟味せずに導入してしまうと、政治家におもねる官僚が大量生産され、政治家の恣意的な人事を助長し、行政の中立性なり公平性が失われてしまうことを危惧したからである。
今回、参院選を目前にしたこのタイミングで、争点になりきらなかった「公務員制度改革」について、田中秀明・一橋大学経済研究所准教授にインタビューを行った(田中教授は、上述のWEDGEの特集で「官僚の専門性を高める具体策」と題し、英国モデルと米国モデルを精査しながら、日本のあるべき公務員制度を論述している)。
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