2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2010年7月10日

田中氏:今挙げられた人の資質について、私はとやかく申し上げる立場にないし、また妥当性を判断するための情報もありませんが、選考プロセスについては憂慮すべきと思います。大使は特別職だから、身分保障もないし、自由に選べばよいかもしれませんが、省庁の幹部や大使を政治任用しているアメリカでさえ、上院が適格性を審査します。民間にも、大使にふさわしい見識と能力をもつ人がいると思いますが、大使ともなれば国家の機密情報にも触れるわけですから、民間人を登用するリスクをちゃんと認識して、審査プロセスを確立すべきでしょう。全て公募すべきというつもりはありませんが、ポスト毎に必要な能力を事前に定義し、候補者がそれに合致しているかを審査すべきです。

 同じ問題は独立行政法人の役員人事にも見られます。厚生労働省の独立行政法人の役員人事では、公募を行い、外部の人が入った選考委員会で審査したにも関わらず、選ばれたのが役人OBだったので、はずされてしまいました。選考基準が役人に有利だからおかしいという指摘なら理解しますが、役人だからダメというのは、逆に公平性を欠いています。むしろ、利害をもった民間人を登用することになりかねません。

──どういう議論があってその人に決めたのか、人事決定のプロセスをもっと透明化すべきじゃないでしょうか。失敗したら誰が責任を取るかまではっきりしなければ危ないと思うのですが。

田中氏:大臣が省庁の幹部を自由に任用したいなら、アメリカのように政治任用にすべきです。それも1つの政治主導の方法です。アメリカでは政治任用された官僚は、大臣と運命を共にしますから。

 しかし、日本の場合、少なくとも国家公務員法の建前は資格任用です。そして、身分保障があります。大臣が更迭されたり、政権が変わっても、基本的には、公務員としての仕事を続けます。資格任用や身分保障をそのままにして、実際の運用でアメリカのような政治任用を導入すると、矛盾が大きくなります。政治家が幹部を任命するのであれば、失敗したときの任命責任を取らなければなりません。資格任用だから、任命責任はとらないというのでしょうか。

 菅首相は、イギリスモデルを志向していると聞いています。公務員は、イギリスのようにプロフェッショナルになるべきだとも言っています。もし、そうであれば、イギリスのように、幹部公務員は、競争原理に基づく透明なプロセスで任命すべきです。最終的には大臣が任命するとしても、恣意的な人事を防ぐためにハードルを高くすべきです。

 私は、政治任用を否定しているわけではありません。国家戦略室や大臣を補佐するスタッフは政治任用として、首相や大臣を補佐する体制が必要です。重要なことは、中立性や専門性を重視する公務員と政治性や応答性を重視する公務員は区別することです。

 日本は、アメリカ・モデルなのか、それともイギリス・モデルなのか。それは、公務員に一体何をさせるかという、哲学に依存します。政治任用であれば、政治家と一心同体となって政治的な調整をします。資格任用であれば、専門性に基づく検討や助言を行います。政治主導のためにどちらを選ぶかです。

──公務員制度改革を設計するには、まず政治主導とは何なのかを定義しなければならないとおっしゃいました。今回の参院選マニフェストでは、政治主導は事務次官会議を廃止したことで実現したことになっていて、政策課題からは消えてしまっています。民主党の「政治主導」をどうご覧になっていますか。


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