中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年7月15日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 ギリシャの財政問題を契機として、世界は、経済成長と財政再建の両立に苦心している。このことは6月下旬に行われたG20トロント・サミットの前文に典型的に現れている。首脳宣言の前文にある「成長に配慮した財政健全化計画の必要性」がそれだ。

金融政策に頼るしかない構図

 もっとも、市場を意識して、参加国の不協和音を表面化させない形で示された首脳宣言では、今後の世界経済の展開は分かりにくい。たとえば、欧州の財政健全化だが、2010年にユーロ圏諸国で名目GDP比0.6%ある一時的刺激策は2011年度には解消される見込みである。当然、その分ユーロ圏経済の成長は下押しされることになる。

 もちろん、経済をしかるべく成長させるための政策手段は財政政策だけではない。金融政策も大きな手段だ。むしろ、主要国で供給過剰によるディスインフレ的な圧力があり、財政緊縮による景気低迷や市場悪化がある中では、主要国で一層金融緩和が進み、それが主要国の財政緊縮による景気下押しを一部緩和することとなろう。

 問題は、主要国の政策手段がすでに緩和的となっている金融政策に限られてきたことにある。言い換えれば、リーマン・ショック後の金融危機時には金融政策と財政政策が総動員されて経済を下支えしたのに対して、足元では金融政策にもっぱら経済と金融市場の下支えを期待するしかないという構図が問題なのだ。

 主要国の景気回復が半ばの状況で財政政策が発動できず、新興国経済によるけん引も限定的となれば、金融政策への期待が今まで以上に大きくなる。すでに、多くの国で超緩和的となっている金融政策は、今後の展開次第では、さらに過度にまで緩和的となることが求められ、世界経済に悪影響を及ぼす可能性も懸念される。

 そうなった場合、どのような悪影響が想定されるのか。主要国とも需要が十分には回復しておらず、供給が過剰なことから言えば、インフレが昂じる可能性は当面強くない。しかし、金融緩和で流動性は豊富にあることから、余剰の資金が新興国や資源などに向かうことが容易に想像される。そうなると、世界経済の成長率はほどほどなのに原油価格などの資源価格が相対的に割高になる展開や、新興国中心に不動産や株の価格が上昇し、場合によっては一部バブル的になる可能性が広がりそうに見える。

人民元切り上げ幅は思いのほか大きい

 ところが、これからの世界経済の展開は資産インフレやスタグフレーションとは違う展開も想定される。それは、中国を中心とした新興国経済が高成長を続ける中で自国通貨を切り上げ、輸入を拡大する展開だ。確かに、先進国の景気回復が緩やかなものに止まり、財政赤字も累積して財政政策が発動できなくなっている状況では、本来ならば高成長が続く新興国経済がカバーすることが望ましい。それは、供給過剰の先進国に新興国の需要増が結びつく形でもある。

 実は、このような方向は、G20首脳宣言でも経常黒字国が需要拡大すべきとの形で明記されている。しかも、首脳宣言では「新興国においては、…為替レートの柔軟性向上等を実施」とも書かれており、主要新興国通貨の切り上げにも期待感を表明している。

 G20首脳宣言で経常黒字国と新興国為替レートの柔軟性向上と言及されれば、その対象がまず中国となることは明白だし、まさに中国の対応如何がこれからの世界経済の大きな焦点となる。多くの見方では、中国はみずからの高成長と雇用の確保が最優先であり、景気と雇用の下押しにつながりかねない人民元切り上げに積極的になるとは思えないとする。また、中国は、「世界の工場」と言われるように大きな供給力があり、いままで輸出を成長の大きな原動力ともしてきたことから、一転して世界経済を輸入で牽引するには限度もあろう。したがって、人民元切り上げもアリバイ作り的な少々の切り上げに止まるのではないかと言うことになる。

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