2024年4月19日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年7月15日

 しかし、足元対ドルで切り上がりつつある人民元の切り上がり幅は、いまのところ年率で12.2%となっている(6月18日を基準日として7月12日までの切り上げ幅を年率換算)。これは、米国の対中経常収支不均衡を是正する人民元切り上げ率が25%から40%と試算されていることから見れば小さいが、市場も含めて年率2%前後の切り上げを予想している現状から見れば結構大きな切り上げだ。

中国は内需中心の高成長を目指す可能性がある

 さて、そうなると、今後の世界経済の動向では中国がどこまで本気で人民元を切り上げ、経常黒字を是正する気があるのかということになる。もちろん、中国政府は経済の高成長持続が最優先だから、他国経済をお人よし的に支えることが主となるはずはない。それは、80年代後半のように世界の機関車役とおだてられてその気になった日本とは大いに異なる。

 一方、金融危機後の経験から、中国政府は経済財政政策の効果に自信を深めているようにも見える。すなわち、景気刺激策を発動すれば十分な効果を挙げられるとの自信だ。足元では賃上げ要求の高まりなどから賃金は一層上昇していて、個人消費が高まる素地もある。そして、中国政府の財政状況は相対的に健全で、土地公有制の下で存分にある土地利用権を売却すれば巨額の財政資金を難なく調達もできる。

 しかも、中国にとって、世界最大となっている外貨準備高をこれ以上大きく増やすことも得策ではないように見える。経常黒字が拡大する中で人民元切り上げを抑制しようとすれば、政府が介入で買い入れる外貨は増え続け、外貨準備高も膨らんでいく。しかし、ドル、ユーロ、円など主要通貨とその通貨で運用される各国の国債などは、高利で安全な資産とは言い切れなくなっている。いずれの通貨や国債も下落懸念を抱え、しかも運用利回りも低い。

 そうであれば、景気刺激策を継続して高成長を維持しつつ、ある程度人民元を切り上げる選択肢もまんざらではない。そして、中国経済が内需中心に高成長を続けるのであれば、景気回復が途上で、政策手段もますます限られてきた主要国経済と世界経済にとっても好都合ということになる。

世界経済は成長リバランスの岐路にある

 いくら主要国が財政緊縮を掲げたとしても、成長回復を軽視し、財政健全化しか見ないということはあり得ない。したがって、これから単純に金融政策が過度の緩和に向かい、世界経済がスタグフレーションや資産インフレを迎えると即断することはできない。また、中国経済が内需中心の高成長にまい進してくれれば、世界経済にとっては大きな福音となる。そして、その可能性はあり得る。

 いずれにしろ、中国経済がこれからどうなるかはそのうち分かってくる。それは、内需面では個人消費がどのように動くかであり、少しずつ高まっている消費財小売額の伸びが今後一段と高まるかは大きな注目点だ。

 こう見ると、政策手段がますます限られる中で世界経済が難しい岐路にあることは確かだが、その意味合いは成長と財政健全化のバランスを上手く取れるかどうかということに限定されない。これからの展開では、成長と金融政策とのバランス、先進国経済と中国を中心とした新興国経済のバランス、主要通貨と人民元を始めとする新興国通貨の為替バランスがどうなるかも重要だし、決して世界経済にとってマイナスになる話ばかりではない。

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