東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月29日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

 *前回(第1回)から読まれる方はこちらからどうぞ

善悪二元論にならないところがいい

『素晴らしき哉、人生!』

浜野 話を続けると、映画好きだったら、『カラフル』見て真っ先に思い出す作品があると思います。フランク・キャプラ監督作品の『素晴らしき哉、人生!』(1) です。

 死のうとしたところに、天使が助けの手を差し伸べるっていう設定自体、よく似ている。でも、決定的に違う。

 フランク・キャプラの場合、善と悪の、二元論的な対立。善だからこそ死ななくて、ハッピーエンドに至るっていう、要するに予定調和的なんです。

 でも『カラフル』には、主人公の真(まこと)が大切に思う人が、不徳や背徳に手を染めているっていう二面性、多面性がある。そのことに真は傷つき、憤るんだけども、丸ごと受けとめる。

主人公・真は、援助交際の現場から、思いを寄せる同級生のひろかを連れ去ることができない  ©2010 森 絵都/「カラフル」製作委員会

 それはもう、決定的にフランク・キャプラ流の善悪二元論と違う。スタンリー・キューブリックが言ったように、人生はキャプラの映画のようなものではない。
(「キャプラは、われわれが皆がこうあってほしいと望んでいるような形で、ものごとの姿を停止した。しかし私は、もっとありのままの人生の像を提出することができると考えている」 (ミシェル・シマン『KUBRICK』白夜書房、1989年、245頁)。
You don’t have to make Frank Capra movies to like people. Capra presents a view of life as we all wish it really were., But I think you can still present a darker picture of life without disliking the human race. And I think Frank Capra movies are wonderful. And I wish life were like most any one of them. And I wish everybody were like Jimmy Stewart. But they’re not.)

 『素晴らしき哉、人生!』は、全米映画協会(AFI)が2005年に発表した「映画が生まれて過去100年、最も感情を揺さぶられた映画百選(100 Years 100 Cheers)」の堂々トップっていう映画ではあるけれど(表参照)、僕、あれより『カラフル』の方がもっと成熟した映画だと感じた。

全米映画協会(AFP)百年百選「Cheers(最も感動した)」部門ランキング(うち10位まで)

(1)『素晴らしき哉、人 生!』:1946年公開のアメリカ映画。監督・シナリオはフランク・キャプラ。現実に挫折 し、クリスマスの晩に自殺を図ろうとしたさえ ない中年・ジョージの前に、落ちこぼれ天使が翼を得るため、彼を助ける使命を受けて現れる。天使は、彼が生まれていなかった世界を見せることで、彼が素晴 らしい人生を送ってきたことを教える。
 
 

 


 

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