規格外れの社長が創った新しい風

寺尾 玄さん(バルミューダデザイン 代表取締役)


池原照雄 (いけはら・てるお)  ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

ヒットメーカーの舞台裏

どんな不況でも、次々と誕生するヒット商品。気になるあの商品は、いったいどのようにして生み出されたのか。舞台裏の開発秘話を丹念に追い、開発者たちの生きざまに迫ります。

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羽根の構造を工夫し、より自然界に近い風ができるようにした。直流(DC)モーターの採用により、消費電力も従来の扇風機に比べて極めて少ない。価格は3万3800円と高いが、デザインも評価され高級家電として人気を得ている。5月に発売すると、大手家電量販が扱っていることもあり、初年度1万台の販売目標を上回るペースで売れている。

バルミューダデザイン 送風機「グリーンファン」。柔らかな風が特長。

 開発したのは東京都小金井市のベンチャー企業、バルミューダデザイン。社長の寺尾玄(36歳)が2003年に設立し、これまでパソコン周辺機器や卓上型のLED(発光ダイオード)照明機器などを手掛けてきた。

 グリーンファンは、初めて量販ルートに乗る期待の商品となった。自然界に近い風の再現は、独特の羽根の構造にある。羽根の本体は1枚だが、内周部は5枚、外周部は9枚と2種類の羽根を組み合わせている。これにより、外周部の羽根は内周部の約2倍の風量を生み出す。外周部でつくられた風は、空気の少ない内周部に引き込まれ、羽根の前方50センチ付近で2つの風がぶつかりあって大きく拡散しながら流れていくようになっている。当たってみると、柔らかみを感じる。

 通常の扇風機の風は直進的であり、かつ「羽根で切り取られた空気が固まり状となって進むため人工的と感じる」(寺尾)のだという。風の強さは4段階あり、もっとも強くした場合の到達距離は約8メートルとなり、室内の風を循環させるサーキュレーターとしても使うことができる。

 また、DCモーターの採用により、もっとも弱い風にすると消費電力は4ワットで、交流(AC)モーターを使った扇風機の30ワット前後よりも格段に少ない。DCモーターは割高で、この送風機の価格にも反映されているが、寺尾が商品化するうえで「妥協しなかった」ところでもある。

雑貨専門店と町工場で
モノづくりの基礎を学ぶ

 寺尾のこれまでの生き方は、とてもユニークだ。17歳で高校を中退、学校で電気や機械工学を学んだことはない。中退後はすぐさまスペイン、イタリアなど南欧5カ国への放浪の旅に出た。小学生の時に親からヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』を読まされ、この作家ゆかりの地を巡ってみたかったという。不幸にも中学生の時に母親を亡くし、保険金は自立のために使ってほしいという遺志をついで旅費とした。両親の教育方針は「普通の人になるな」であり、父親は喜んで海外へ送り出した。1年後に帰国した寺尾は「何でもできるという気持ち」になっており、ギターを買ってシンガーソングライターになった。

 自作のデモテープを音楽事務所に送ると、トントン拍子で専属契約に。バンドを組んでライブを中心に9年間活動した。バンドの解散と同時に、「この世界はもうやり尽くした」と、27歳になった寺尾は新たな道に踏み出す。モノづくりだった。ミュージシャン時代に使っていたアップルのパソコンなどの機能やデザインに触発されたのだ。

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「ヒットメーカーの舞台裏」

著者

池原照雄(いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

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