自己責任なき山歩きの横行を許すな

救助費の自己負担を検討せよ


羽根田 治(はねだ・おさむ)
フリーライター。1961年埼玉県生まれ。山岳遭難や登山技術などをテーマに執筆活動中。著書に『山の遭難 あなたの山登りは大丈夫か』(平凡社新書)など多数。近刊に『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(山と渓谷社・共著)がある。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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救助ヘリコプターをタクシー代わりに呼びつける安易な救助要請が増えている。
そもそも主体性を持って山に入っている人がどれほどいるのか?
救助費を自己負担させれば、自覚を持った登山者が増え、遭難も減るはずだ。

 2010年2月、東京近郊のハイキングエリアとして人気の高い箱根の金時山~明神ヶ岳のコースを歩いていた60歳代の男女3人パーティが、携帯電話で救助を求めてきた。誰かがケガをしたわけではなく、道に迷ったわけでもない。ただ雪が深いため思うように歩けず、日暮れも迫ってきたので救助を要請したのであった。

 こうした“遭難未満”の救助要請は枚挙にいとまがない。夜10時ごろ、北アルプスの岳沢あたりから「疲れて動けない。暗くて道がわからない」という救助要請があり、救助隊員が「そこでビバークして明るくなるのを待て」と指示すると、「だったらけっこうです。自分で歩きます」と言って電話を切られたという。

 また、要請を受けて救助隊員が現場に向かおうとしたら、登山口で自力下山してきたそのパーティとばったり出くわし、「遅いよ」と言われ、救助要請をキャンセルされたこともあったそうだ。丹沢方面を管轄する救助隊の隊員は、「ヘッドランプひとつ持っていたら、出動しなくてすむ事例がいっぱいある」と言って嘆いていた。

 とくに近年は、こうした安易な救助要請の問題がずっとくすぶり続けている。かつての山男たちには「救助を要請するのは恥。山は自分の足で登って自分の足で下りてくるもの」という認識があった。ちょっとやそっとのケガで救助を要請するなんてことは考えられず、這ってでも自力で下りてきたものだった。ところが今は、「登山は自己責任で」という大前提が通用しない時代である。行政ヘリコプターがタダであることを誰もが知っているうえ、携帯電話の普及によってすぐに連絡がとれることから、大したケガでもないのに、まるでタクシーを呼ぶような感覚で救助を要請してしまう。救助費用を税金から捻出することに対して反発が強まっているのは、そのためだ。

過去最悪の遭難件数 
突出する中高年

 そんななかにあって、増加傾向がいっこうに衰えそうにないのが遭難事故である。警察庁生活安全局地域課が毎年発表している、国内における山岳遭難事故の統計によると、中高年の登山ブームが始まる以前は遭難発生件数および遭難者数ともにほぼ横ばい状態に推移していたのに、1990年初頭以降は急カーブを描いて増え続けている。6月発表された昨年度の統計では、発生件数が1676件、遭難者数は2085人、うち死者・行方不明者は317人と、統計を取りはじめた61年以降、いずれも過去最悪の数字を記録した。ちなみに90年の遭難発生件数は571件、遭難者数は729人だから、この20年ほどでおよそ3倍にも増えていることになる。

 もっとも、この統計には登山時の事故だけではなく、山菜・キノコ採り、渓流釣り、観光、狩猟、作業の際に起きた事故も計上されている。とくに「山菜・キノコ採り」が占める割合はかなり大きく、昨年は全遭難者数の23%も占めている。ただ、近年その割合は20%前後とほぼ変わっていないので、登山時における遭難事故が増え続けていることだけは否定のしようがない。

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