特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年6月30日

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ライフネット生命会長・出口治明さんが「歴史」や「教養」をテーマに、さまざまな有識者をゲストに迎える対談企画「出口さんの学び舎」。技術革新やグローバル化により変化の激しい現代で、ぶれない軸を持って生きていくために必要なものとは何か、対話を通じ伝えていく――。

*前編はこちら

 

子どもは身近なロールモデルに強い影響を受けます

出口:子どものやる気と経済学の関連性はどう考えればいいのでしょうか。どうやって、子どもをやる気にさせたらいいのでしょうか。

中室:これは、講演に行くとお母さんに聞かれる、一番多い質問です。

出口:僕は本好きなので、若いお母さんの集まりで「どうやったら子どもを本好きにできますか?」と聴かれたんです。答えは簡単で、「図書館に行って、分厚い本を2、3冊借りてきてください。お父さんとお母さんがその本を開いて、読まなくてもいいからゲラゲラ笑ってください。そうしたら子どもは『本って面白いみたいだな』と思うんですよ」と言っています。

中室:なるほど。

出口:先ほどの話にもあったように親はロールモデルです。人間ってロールモデルをまねようと思うんですよね。だから、子どもにこんなことをやらせたいと思ったときには、まず親がやればいいんじゃないでしょうか。嘘でもいいので。

中室:今、出口さんがおっしゃったことは、経済学では「ロールモデル効果」と呼ばれています。良いロールモデルがいると、子どもの行動やモチベーション、関わり方が変わってくることが実証的に明らかにされています。

出口:ロールモデルが、必ずしも親でなくてもいいということはありますか?

中室:はい。親だけではなく、教員や身近な大人を対象にした研究もあります。

出口:お父さんもお母さんもメチャクチャだけれど、出会った学校の先生がこんなことを教えてくれた、ということもある。

中室:そうです。過去に海外で行われた実証研究では、640校もの学校を対象にして行われた実験があります。ここにその地域の出身者である「ロールモデル」を派遣して講演をしてもらうわけです。実はロールモデルとして派遣された著名人には、様々な人がいました。要するに、ちょっとしたプチセレブのような人から、テレビに出るような有名人までいたわけです。こうした中で、特に成績が良くなったのは、テレビに出るような有名人ではなくプチセレブの講演を聞いた子どもたちだったことが明らかになっています。

出口:それはそうでしょうね。

中室:たとえば、大リーグのスーパースターであるイチローに野球の指導をしてもらうよりも、リトルリーグの監督に教えてもらったほうが上手になれるというわけです。ちょっと背伸びして、あの人のようになりたいなというロールモデルがいることが大切なんだということではないでしょうか。

出口:歴史を見て面白いのは、名君ってだいたい後継者選びに失敗しているんですよ。中国でいえば唐の太宗・李世民。満州族の清朝でいえば康熙帝などが失敗している。お父さんができすぎると、子どもは「とても勝てへん」と思うんでしょうね。

 今の時代でも、あまりによくできる上司は部下がみんなアホに見えてしまって「なんでこんなことがでけへんねん!」とかついつい言ってしまうでしょう。

中室:たしかに。

出口:だから、ロールモデルもいろいろなパターンがあっていいと思うし、やれば手の届く、身近なロールモデルが何よりも大切ですね。

中室:学年や年齢によっても、パターンが変わってくるかもしれません。たとえば、小学校低学年の子だと、イチローよりもリトルリーグの監督なのかもしれませんが、中学生や高校生になってくると、イチローと直接対話し、直接手ほどきを受けるというのは特別な経験になる可能性がありますね。

出口:TPOに応じて変わるのかもしれませんね。

男の子にとって最も強力なロールモデルはお父さん

出口:経済学から見て、母親の役割と父親の役割で、これは効果的だと思うことはありますか?

中室:研究が示すところによると、お父さんというのは、やっぱりあまり子育てに熱心ではありません。日本のデータをみると、父親の育児へのかかわりは、母の就業状況にかかわらず相当少ないことが示されています。ドイツでは、強制的に父親に育児休暇を取らせた期間があったのですが、それにもかかわらず、父親が育児に使う時間は特に増えなかったという研究があります。つまり、父親は育児休暇を自分の「余暇」だと考えたのです。子ども手当てなどのような現金給付を、母親が受け取ると子どものために使うが、父親が受け取ると自分のために使ったことを示した研究もあります。これらの研究は、いずれも母親の場合逆の結果になっていることを示しています。
 
出口:ハハハ、そうでしょうねえ。

中室:だから、開発途上国の一部では、子ども手当のような現金給付は、父親ではなく母親が受け取れるように工夫している行政機関もあるほどです。

出口:今の話は、生物学の知見からいうと完全に整合的ですよね。

中室:本当に。人間も生物だということです。

出口:女性は、一生に4~5人しか赤ちゃんを産めません。しかも、昔は半分は死んでしまった。自分の卵子は貴重なので、女性は徹底的に男を選び抜き、「この人なら私と子どもの面倒を見てくれる」という人を選んで、子どもを大事に育てる。そうすることで、自分の遺伝子を残す確率が高くなるんです。

 男性はどうかといえば、自分で産むことができないので、手当たり次第に出会った女性に声をかけ、関係を結んで、一人でも多くの赤ちゃんを作ることで遺伝子を残そうとする。だからこれは、雄と雌の性差の行動の延長ですよね。

中室:おっしゃる通りです。私はいつも講演などで言っていますが、子育てに積極的に関与しようとしない父親に「何故なのか」ということ自体……。

出口:無駄です。

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