特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年4月25日

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「今、役に立つ知識は、すぐに時代遅れになり陳腐化していく」

森本:最近、リベラルアーツという言葉をよく聞くようになりました。企業の方からも「ぜひともリベラルアーツをやってくれ」と言われるようになっています。スティーブ・ジョブズはリベラルアーツが大事だと言いました。iPhoneのように「心を躍らせる」ものは、テクノロジーだけでは生まれないんだ、と。

森本あんりさん

出口:日本の企業が、グローバル企業の人たちと接するようになったことが大きいのではないでしょうか。僕はロンドン駐在を3年間、その後東京に戻って保険会社の国際業務部長を3年間やっていたのですが、グローバルな金融・保険業界の経営者や幹部と名刺交換すると、ほとんどがダブルドクターやダブルマスターなんです。日本の企業の人たちも、ようやくそれが大事だとわかってきたのでは。

森本:うちの大学は、戦後ずっとリベラルアーツと言ってきたんですが、最初の50年くらいはずっと「何そのカタカナ?意味がわからない」と言われていました。「要するに一般教養でしょ」という認識でしたが、今は変わりましたね。なぜかというと、物事の動きのスピードがあまりにも早いので、多少の専門知識を手に入れてもすぐ時代遅れになってしまうからです。

出口:だから、考える力が必要なんですね。

森本:そうです。外国の大学に比べると、日本の大学は基礎力の養成に弱いです。

出口:むかし、面白いエピソードを聞いたことがあります。ある実業家が大成功して母校に大金を寄付した。学長が喜んでランチに招待し「寄付をありがとうございます。ついては、ひとことお言葉を」とお願いしたら、その実業家は「僕は母校からたくさん後輩を採用しているけれど、全然役に立たない。キャッシュフロー表も作れない。もっと企業に役立つ教育をやってくれ」とのたもうた。しかし学長はこう答えました。「お安いご用です。役に立つものならすぐに教えられます。でも、そんなものはすぐに役に立たなくなりますよ」と。

森本:やっぱりそうでしょう。

出口:森本先生がおっしゃる通り、社会は日々進化していくので、今役に立つものはすぐに陳腐化していく。必要なのはそういうものではなく、考える力です。僕は還暦のときにライフネット生命を始めて、スタートから数えて10年になるのですが、何かにつけ思うのはダーウィンです。

森本:え、そんなに遅く始められたのですか。それでダーウィンですか。

出口:分け入っても、分け入ってもダーウィンやな、と。ライフネット生命を作るときに、金融庁に許可をもらわないといけないので、事業計画をかなり丁寧に作ったんですよ。免許を与えてすぐに破たんしたら責任問題なので、お役人はものすごく石橋を叩くんです。たとえば「1年間契約がゼロだったらどうしますか」とか「最初の日に500万件来たらどうするんですか」とか。そういうケースを全部想定して計画を作り、1年半かかって許可をもらいました。それほど想定しても、実際に起きることは違うんです。

森本:なるほど。

出口:そこで思ったんです。ダーウィンの進化論のように「世界はすべて、運と適応だ」と。要するに、強くても大きくても生き残っていくとは限らない。何が起こるかもわからない。適当なときに適当な場所にいることが運なのでそれに適応していかなければならない。

 そう考えると、やっぱり大学では自分で考える力をつけるべきですよね。しかも物事の根底から、社会常識をいったんクリアにしてゼロから考える力を身につけるべきだと思います。知性的とはそういうことではないでしょうか。

森本:先ほど7割は無意識というお話がありましたが、他の人と意思疎通するためには、自分でも理解していないその無意識のところを、3割の意識へと持ち出して話さなければいけない。それは、自分の思考力を試すところでもあるし、表現力を試すところでもある。思考力と表現力。この二つがリベラルアーツだ、という考え方には2000年くらいの歴史があって、今もずっと同じなんです。思考力と表現力があれば、自分の頭でものを考え、自分の言葉で相手に伝えられますからね。まさにそれを養うのが、大学の使命だと思います。

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