特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年6月29日

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ライフネット生命会長・出口治明さんが「歴史」や「教養」をテーマに、さまざまな有識者をゲストに迎える対談企画「出口さんの学び舎」。技術革新やグローバル化により変化の激しい現代で、ぶれない軸を持って生きていくために必要なものとは何か、対話を通じ伝えていく――。

出口治明さん、中室牧子さん

「教育は投資」への反感はどこから?

出口:アメリカの研究などでは、できるだけ幼児期に教育投資したほうが、効果が高いという研究結果が発表されています。教育のどの段階で何にどう投資すれば意味があるのでしょう。

中室:わぁ、いきなり奥の深い質問ですね。まず、経済学では、教育を「投資」と考えますが、一般の方にとってはあまりそうした考え方が馴染みがないようです。私がテレビなどで「経済学は教育を投資と考えています」と言うと、「自分の大事な子どもに対してお金をかけるのは、投資ではない。別に見返りを求めているわけではない」という批判のご意見が寄せられます。

出口:でも、お金をかけることって、すべて投資ですよね。

中室:消費に過ぎないお金の使い方というのもあると思います。しかし、消費とは区別して、教育は投資なのです。もちろん、子どもにお金を使うことで必ずしも何か見返りを求めているわけではないからといって、学校を卒業した後、全くお金を稼げない大人になったとしたら・・・。やはり、親としては頭を抱えてしまう。そのことを頭では理解しながらも、教育にお金をかけることを「投資」と呼ぶのに、抵抗がある方も少なくないというところでしょう。

出口:それは、なぜでしょう?

中室:おそらく、教育の成果をお金で測ることに抵抗があるのではないかと思います。ただ、経済学は、教育の成果を将来の収入や賃金だけで測っているわけではありません。将来の健康や幸福などもまた教育の成果と捉えています。自分の子どもに健康で、幸福であってほしいと思わない親はいませんから、健康や幸福までも含めて、教育の投資リターンを考えているのですと言えば、納得していただけるのではないかと思っています。

 ただ、教育に対する投資が、株や債券などの金融資産に対する投資と違うのは、教育への投資には「外部性」が存在するということです。たとえば金融資産への投資の場合、その投資からリターンを得るのは自分だけです(これをやや専門的に言うと「教育の私的収益率」といいます)。一方、教育にはそうした私的な投資リターンだけでなく、社会全体が得る投資リターンもある(これを「教育の社会的収益率」といいます)。

出口:地域の住民同士のつながりが強くなったり?

中室:はい。それ以外にも、公衆衛生の改善や、犯罪率の低下、投票率の上昇や貧困や格差の解消などです。

出口:なるほど、その通りですね。

中室:こうした教育による正の外部性の存在が、教育に公的資金を投入することを正当化する理由です。教育を受けることによって、「私」も豊かになるけれど、「社会」の人々も豊かになれる可能性がある。これが、教育が金融資産などへの投資と最も大きく異なる点だと考えられています。

教育とはリテラシーを高めていくことです

出口:僕は次のように考えています。人間は動物であるというのが大前提だと思っていて、二足歩行で大脳が大きくなったことによって、人間は特殊な動物になった。普通、動物はすぐに大人になりますが、人間はこの二つの制約から、20年くらいかかって大人になるんですね。そして人間が生きる社会は、いろいろな制約もあってかなり複雑です。動物ならエサを獲るだけでいいけれど、いろいろなリテラシーを高めていかなければ人間は幸せな生活ができない。

 飢えた人に食べ物を与えるのではなく、魚の釣り方を教えなければいけないという話がありますが、僕は教育って魚の釣り方を教えることだと思うんですよ。複雑になった社会で生きていくために、いろいろなことを教えるのが教育。

中室:はい。

出口:しかも、世の中はどんどん変わっていきます。ダーウィンの言う通り、賢い人や強い人が生き残るのではなく、適応するしかない。

 人間にとって最も大事なことは、「自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見を言うこと」です。プラス、今の社会で必要な「政府とは何か」「社会保障とは何か」「お金とは何か」などというリテラシーを高めなければ上手に適応できない。

 人間にとって幸せな生活というのは、ごはんが食べられて、寝床があって、子どもが安心して産めて、上司の悪口が言えること。悪口というのは言論の自由ですね。そして、移動の自由があること。置かれた場所で必ずしも咲く必要はなくて、咲けるところを探して世界中どこへ行ってもいい。そういう当たり前の生活をするための武器を与えるのが教育だと、僕は思うんです。

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