2024年4月25日(木)

中東を読み解く

2017年6月29日

砂漠への一時撤退

 モスルを失った後、ISの戦いはどうなっていくのか。モスルはISにとって、イラク領内に残った唯一の大規模拠点だが、今後はイラクとシリアの国境地帯でのゲリラ活動に移り、時折バグダッドなどで自爆テロを敢行するといった作戦に変わっていくのは間違いあるまい。

 この点に関しては、2016年8月に米空爆で殺害されたISの公式スポークスマン、ムハマド・アドナニがはからずも“予言”していた形になっていく公算が濃厚だ。アドナニは2007年の壊滅的な状況からISの前身である「イラクのイスラム国」がいかに蘇ったかを強調。

 「領土の喪失は敗北を意味するものではない。砂漠に一時的に撤退し、再起を期す」などと述べ、いったんは後退しても再起できると戦闘員らを鼓舞していた。その後、ISのニューズレターもこの「一時的撤退」(インヒヤズ)という考えを宣伝してきた。

 ISはシリアでも首都であるラッカで米支援のアラブ民主軍(SDF)と激戦を展開しているが、幹部らはラッカから南東約190キロのマヤディーンに移ったと見られ、同地が“新首都”になりつつある。マヤディーンを含むデイル・ゾール県が「一時撤退」後のISの新たな戦場ということだろう。

 先細りになったISが今後、シリアのアルカイダ系過激派である旧ヌスラ戦線に身を寄せる可能性もあり、アサド政権軍やイラン支援のシーア派民兵軍団と、米支援の武装勢力によるIS壊滅に向けた「先陣争い」の混乱に乗じて生き残りを図っていくことになるだろう。

  
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