欧州 絶望の現場を歩く
―広がるBrexitの衝撃
木村正人 著
欧州はいま、混迷の中にあります。
英EU離脱と世界経済への影響、テロの多発、バルカン半島から大量に密輸される銃器、難民流入の深刻化など、さまざまな問題が輻輳的に絡み合い、大きな歪みを生じさせているのです。
本書は、イギリス在住のジャーナリストが、欧州で起きている問題の一つひとつの現場を歩き、話を聞き、ルポとしてまとめた1冊です。
なぜ英国はEU離脱を選ぶに至ったのか、離脱が世界経済に及ぼす影響、次の離脱が危ぶまれている国はどこなのか、次々と繰り出されるテロの新常態にどのように対処しているのか、政治経済と難民問題を秤にかけざるを得なくなっている政治家たちの苦悩とは――。
政府筋、金融シティ、一般市民、難民など、現地徹底取材によって、欧州が抱える問題の本質を探ります。
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<書籍データ>
◇新書判並製 272ページ
◇定価:本体1,300円+税
◇2017年1月20日頃発売
◇ISBN: 978-4-86310-174-6
<著者プロフィール>
木村正人(著者)
在ロンドン国際ジャーナリスト、元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
Yahoo Newsほか、ブログ「木村正人のロンドンでつぶやいたろう」でも情報発信。
<立ち読み>
(「はじめに」より)
2013年11月に拙著『EU崩壊』(新潮新書)を刊行してから3年余、想像以上に早くEU(欧州連合)崩壊の序章が始まった。英国のEU離脱を引き金にスコットランドが独立し、英国自体がバラバラになるリスクも顕在化する。大戦の荒廃から欧州の平和と繁栄を目指した未完の統合プロジェクトは、英国の離脱で頓挫するかもしれない重大な局面を迎えている。
そして米大統領選では「アメリカ・ファースト(米国第一)!」を唱える一方で、人種差別・性差別発言を繰り返した共和党のトランプ候補が信じられないような大逆転劇で勝利を収めた。私たちは民主主義の主役である有権者の声に耳を傾ける必要がある。どうして大西洋を挟んだ英国と米国で反エスタブリッシュメント(体制側の支配層)に対する火の手が上がったのか。(中略)
問題の根源は、欧州統合の一里塚とされた単一通貨ユーロの構造的欠陥によってEU域内の失業者は2千万人(ユーロ圏では1600万人)を超え、出稼ぎ移民の大移動が単一市場の不備を浮き彫りにしてしまった点にある。EUは繁栄の手段として人・モノ・資本・サービスという4つの自由移動を認めた単一市場と、金融・為替政策を統合した単一通貨を導入したが、いつの間にか手段を維持し続けることが最大の目的と化してしまった。
欧州統合の目指した平和と繁栄は「人間の尊厳」を立脚点にしていなければならない。その意味で、単一通貨を守るためギリシャの困窮者を緊縮財政でさらに痛めつけ、難民の受け入れでは足並みがそろわず、反EUの極右、急進左派の台頭を許した時点で、EUは道徳的に死んだと言えるかもしれない。
英国のEU離脱が決定された今となっては双方のダメージを最小限に抑える形で離脱と新協定の締結を2年以内に終わらせることが最善策である。移民規制と単一市場へのアクセスを天秤にかける英国とEUの新協定が、いつ、どんな形で結ばれるのか、スコットランドと北アイルランドが分離して英国は解体するのか。正確に予測するのは難しい。
とりわけ深刻なのは、英国が平和と繁栄という欧州統合プロジェクトに背を向けてしまったことだ。英国と欧州、そして世界が不確実性の時代に突入している。しかし自由貿易の先頭を走ってきた通商国家の英国がグローバル化とデジタル化に背を向けると考えるのは早計だ。英国では産業革命期に起きたラッダイト(機械打ち壊し)運動をきっかけに労働者の権利が次第に認められ、資本家と労働者の共存が図られるようになった。
ネオ・ラッダイト運動の狼煙とも言えるEU離脱決定をきっかけに英国は国家の役割を強化して、グローバル化とデジタル化が急激に広げる格差を是正し、1%の超富裕層とそれ以外の
99%の共存を目指す方向に動いて行かざるを得ないと筆者は考えている。このシグナルを読み誤ると、日本は21世紀の国際競争から完全に脱落してしまうだろう。
なぜ、英国はEU離脱を選んだのか。その選択が英国や欧州、そして世界の未来にどんな影響を及ぼすのか。筆者はジャーナリストとして世界金融危機が胎動し始めた07年からロンドンを拠点に英国と欧州の問題を追いかけてきた。学者の論文とは異なる最前線からのナマの報告をお届けしよう。
<目次>
はじめに
1 EU崩壊の胎動
二分された民意/支配層と庶民の断裂/経済統合か民主主義か/欧州懐疑主義の逆噴射
2 二大政党制の崩壊
アイデンティティー・ポリティックス/新自由主義の敗者/イートニアンたちの政治ゲーム/「新・鉄の女」メイ首相/凋落し続ける労働党
3 英国分裂の危機
EU残留を望むスコットランド/歴史的な反イングランド感情/スコットランド民族党の躍進/開き直る独立派、慌てふためく残留派/回避された独立/EU残留か、さもなくば住民投票へ/「北アイルランドで国境が復活する」
4 英国人がEUとの離婚を選んだ理由
ドイツを疑うメンタリティー/メリットにコストがまさる/アンダードッグの憤懣/EU離脱の立役者ファラージの凄味/移民をめぐる損得勘定/移民から搾取する斡旋業者/人口減少が始まった/現代の『レ・ミゼラブル』/賃金を上げよ
5 ブレグジットが経済に与える衝撃
「穀物法」論争/EU離脱の青写真交渉/交渉上手な英国だが、人材は枯渇/「金の卵」アーム社買収の裏側/大学ビジネスと留学生バブルの危機/金融センター、シティーをめぐる攻防/どうなる貿易協定、日系企業/移民を抑えれば経済が沈む構図
6 押し寄せる絶望の難民たち
ドーバー海峡を挟んだ英仏の攻防/難民による集団性的暴行の衝撃/不法難民阻止を掲げたEU・トルコ合意/刑務所も同然の難民管理センター/それでも国境を目指す難民たちの絶望
7 テロ対策の新常態
排外主義とテロの産業化/情報テロ対策の綻び/ブリュッセルの過激派と銃器ルート/誰にでもAK‐47が射てる/放射性物質の闇取引
8 離脱ドミノへの起爆剤、「五つ星運動」
ローマ初の女性市長ラッジへの期待/「難民はコカインよりカネになる」/大学を牛耳る恐竜たち/中央統制とデジタル直接民主主義/脱物質主義、高学歴の若者が支持層/危機を解決できないEUへの「ノー」
9 拡散するブレグジットの衝撃
スペインを揺さぶるカタルーニャ州独立/オーストリアで「極右」政権誕生へ/躍進する右派政党「ドイツのための選択肢」/ドイツとフランスの断層線
10 英国は没落を回避できるか
英米「特別関係」の終わりの始まり/失われた「パンチ・アバブ・ユア・ウエイト」/「ストリート・ファイター戦術」/英中「黄金時代」のキナ臭さ/英中蜜月の仕掛け人と悪夢のシナリオ/日露接近で捻じれる利害関係
おわりに
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