昨年は全米に旋風を巻き起こしたバーニー・サンダース上院議員。このところはやや話題に上らなくなっているが、サンダース流改革を諦めたわけではない。今年6月には「サンダース・インスティチュート」を設立、非営利の教育団体としてウェブを通して国民の「真の民主主義に向けた」啓蒙活動を行う、という。
(iStock)
中心人物はサンダース夫人でもあるジェーン・オメイラ・サンダース氏で、創立当初の布陣にはカリフォルニア大バークレー校教授のロバート・レイヒ氏、元オハイオ州議員のニナ・ターナー氏、アーティストで政治活動家でもあるハリー・ベラフォンテ氏、国連アドバイザーで大学教授でもあるジェフリー・サックス氏、プリンストン大学教授コーネル・ウエスト氏、タルシ・ガバード下院議員、環境運動家のビル・マッキベン氏、俳優で人権運動家のダニー・グローバー氏、投資家のベン・ジェローズ氏、ミズーリ大学教授ステファニー・ケルトン氏が名を連ねる。
今後の活動だが、ウェブ上でこれらの人々がそれぞれの専門に応じた意見を発表する、講演活動を行う、などが予定される。インスティチュートで扱う議題としては「経済、経済の公平性」「健康保険」「人種間の平等」「環境保護、地球温暖化対策」「教育」「政府と民主主義」「退役軍人への対応」「社会的平等」「環境に優しい経済発展のあり方」「刑法」「対外政策」などが挙げられている。
インスティチュートと言いながら現時点では大学のような講義形式、あるいは小池氏の未来塾のような私塾制度でもない。選挙中からサンダース氏に賛同してきた若い世代に向けて、様々な政治的議題にまつわる考え方、識者の意見などを発表し、ウェブを通して賛同者が意見を交わせる場所にする、というのが狙いのようだ。
トランプ政権はまさにサンダース氏が描いた理想の逆を邁進している。今年初めに出されたイスラム系7カ国からの入国を基本的に禁じる大統領令には、サンダース氏は真っ先に噛み付いた。しかしその後も地球温暖化に対するパリ議定書からの離脱、全米の聖域都市(移民に対して優しい条例を持つ都市)への政府補助金減額、そしてオバマケアの「改革」と、サンダース氏やその支持者にとってはまさに悪夢のような政治が続いている。
インスティチュート設立後、最初の議題として取り上げられたのが今政府で可決が待たれる「アメリカン・ヘルスケア・アクト」、通称「トランプケア」についてだ。オバマケアの「改悪版」とも言われるトランプケアでは、米下院予算委員会ですら「来年2018年には1400万人が健康保険を失い、2026年には保険未加入者は5100万人に到達する」との予測を出している。
しかしインスティチュートではもう一歩踏み込み、オバマケアですら26年の時点で2800万人の保険未加入者を出す、としている。オバマケアはウェブ上でのマーケットプレイスで保険を持たない人々がそれぞれの年収に応じて政府からの補助金込みの割安の保険に加入できる、というものだが、国民皆保険には至っていない。さらに保険料が年々上がっていることから、一度はオバマケアに加入したもののその後離脱する人も増えているためだ。
サンダース氏は米国の健康保険システムに対し「多くの人が健康保険制度から除外された結果、ガン、心臓疾患、糖尿などの既往症を持つ人々が年間に数千人単位で死亡する」と警鐘を鳴らしている。今米国に必要なのは日本や欧州諸国のようなユニバーサル健康保険制度だ、というのが従来からのサンダース氏の主張だ。
インスティチュートではNational Nurses United(全国看護師連合)と共同で独自のユニバーサル保険構築についてのレポートを作成、ウェブ上で概要を発表すると同時に、レポート全体をダウンロード閲覧できるシステムを提供している。www.sandersinstitute.com/blog/medicare-for-all-vs-all-the-healthcare-that-each-can-afford