大人の週末NAVI

2010年8月18日

»著者プロフィール

 開催中のブリューゲル版画展が連日盛況だ。会場は多くのグループや親子連れでにぎわっている。

 版画というと、モノクロの単調な作品を思い浮かべる人も多いかもしれない。だが、ブリューゲル版画はイメージが力強く、人間、聖者、怪物が同じ画面にひしめき合う様子は一種異様。だが、それらモチーフのひとつひとつはマンガめいてユニークで、その作品を前にすれば、思わず隅々まで見入ってしまうはず。

ピーテル・ブリューゲル 大食(七つの罪源シリーズ)
1558年 エングレーヴィング ベルギー王立図書館所蔵 ©KBR

 かといって、単に奇異なのではない。ユーモラスな怪物たちは、人間のこころに潜む欲望を体現したもの。ブリューゲル版画は、キリスト教の教義やブリューゲルが活躍した16世紀ヨーロッパの諺にもとづいた寓意として描かれており、人として嗜むべき徳目や、欲望に端を発する罪源を擬人化したり怪物として描き出し、見るものの戒めとしているのである。

 こうした版画群は、当時を生きた人々の道徳観や生きる知恵の結晶。ブリューゲルは、緻密な観察に裏打ちされた洞察力で、愛すべき人間の表と裏を表現する。

 また、当時の農民や生活様式がリアルに描かれていることも特筆すべき点。祭りや婚礼の様子、服装や日用品まで、ともすれば動き出しそうな、生き生きとした表現に触れることができる。

ふしぎなブリューゲル作品

 ピーテル・ブリューゲルは、16世紀のフランドル地方で活躍した画家。その人となりはほとんど伝わっていないが、日本では「バベルの塔」や「ネーデルラントの諺」をはじめとする、キリスト教的主題や農民の風俗をモチーフとする油彩画で知られてきた。

 今回はブリューゲルの油彩画ではなく、もうひとつの大きな仕事、画業の初期から続けてきた版画の一群に焦点をあてた展覧会である。

 日本で、ブリューゲル版画展が開催されるのは実に21年ぶり。ブリューゲルの70点の版画に加え、同時代の版画家たちの作品が150点出品されているが、うち147点がブリュッセルにあるベルギー王立美術館所蔵のもの。ベルギーの国宝級の作品が一堂に会すチャンスだ。

 作品は、一度目にすれば忘れがたい。

 たとえば、次ページの「大きな魚は小さな魚を食う」という作品。強者は弱者を、弱者はさらなる弱者を取り込みながら生きることの寓意。現代社会を生きるわたしたちにもなじむ。会社のなかのヒエラルキーや、巨大な資本主義社会だって、通じるところがないだろうか。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る