No Science, No Business

2010年9月4日

»著者プロフィール
閉じる

鹿野 司

1959年名古屋生れ。科学ライター。科学、コンピュータ、SF誌を中心に、コラム、インタビュー記事を執筆。映画,『ガメラ2』の科学考証なども手掛ける。現在、SFマガジン、NECのビジネス情報サイトWisdomなどにコラムを連載中。著書に、『サはサイエンスのサ』、『オールザット・ウルトラ科学』『狂牛病ショック』(共著)、『巨大ロボット誕生』『教養』(共著)などがある。

ヒット商品や、ビジネス上の大転換を支える科学の力を読み解く本連載。
第1回目は電気自動車を取り上げる。ガソリン車から電気自動車への大転換は、産業技術史上、もっとも起こりにくいはずの出来事だった。その象徴的存在でも ある日産「リーフ」をはじめ、電気自動車という存在から見えてくるのは、次世代インフラとして電気が果たす役割の大きさだ。

*前篇からお読みになる方はこちらから

バッテリーがカギ 今後の電気自動車市場

 エンジンとギアボックスという機械的なしくみで動く内燃自動車と、モーターとインバーターという電気的なしくみで動く電気自動車では、前者のほう が設計が複雑で、部品点数も多く、製造にもはるかに高い精密さが求められる。このことからすると、電気自動車は、内燃自動車よりも安く作れるように思える。しかし、今のところそうなっていないのは、バッテリーに原因がある。

 内燃自動車ではただのタンクだったものが、バッテリーに置き換わるわけだから当然とはいえ、やはりバッテリーこそが、電気自動車の値段を決定する 最大の要素だ。

 また、バッテリーは単に容量が大きければ良いわけではなく、自動車にふさわしい性質を持たせなければならない。つまり、バッテリーは、技術的にも 電気自動車の性能を左右する、要の部品といっていい。

 日産は、今使うことができるバッテリーの中から、最も現実的な解として、リチウムイオン二次電池を採用している。

 リチウムイオン二次電池は、1992年にソニーが発明した技術で、エネルギーをたくさん蓄えられる上に軽く、今では携帯やモバイルパソコンなどの 携帯機器のほとんどに使われている。

 リチウムは、元素の中でも水素、ヘリウムに次ぐ原子番号3で、固体の中でもっとも軽く、電池に使えば、軽くて高密度に電気エネルギーを蓄えられる ことは、古くから理論的には知られていた。ただ、金属状態のリチウムは、水に触れるだけで燃えるほど反応性の高い物質で、安全性を確保するのが難しい。

 この問題を、ソニーはリチウムをイオンの形(溶媒に溶けた形)で利用することで克服した。

 ただし、モバイル機器で広く使われている一般的なリチウムイオン二次電池では、自動車には使いづらい性質がある。

 一般的なリチウムイオン二次電池には、-極は炭素、+極にはコバルト酸リチウムというセラミックスが使われている。

 この材料は、酸化コバルトとリチウムが交互に層状に積み重なった構造をしていて、電池を充電する時は、この層の隙間からリチウムイオンが抜け出て -極に移動し、逆に、電池を使うと、リチウムイオンが戻ってきて層の隙間に入り込む。

 つまり、これまでのリチウムイオン電池は、充電しすぎると+極のリチウムが無くなって、結晶の層構造を保てず、つぶれて壊れてしまう。しかもこれ が一度に広範囲に起きると温度が急上昇して、最悪の場合電解液の有機溶媒が発火し、爆発する可能性すらある。

 また、過放電の状態になっても、結晶構造は破損してしまう。このため、リチウムイオン二次電池の電池パックの中には、一定以上の電流が流れると、 それを遮断する保護回路が、必ず組み込まれている。

 ただ、それでも、ミクロなレベルでイオン量を制御することはできないため、結晶の部分部分で過充電や過放電が起きて、徐々に構造が壊れていく。携 帯電話などを何年か使っていると、だんだん充電の容量が減ったり、バッテリーパックがパンパンに膨らんで、携帯の蓋が閉まらないくらいになってしまう事が あるのはこのせいだ。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る