安保激変

2017年9月14日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター主任研究員

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 9月3日、北朝鮮は6度目の核実験を行った。今回で6度目となる核実験は、水素爆弾を使用した実験であった可能性が高いと言われている。今年1月から数えても計12回になるミサイル実験を経て行われたこの核実験は、水素爆弾を使用した可能性が極めて高いと言われているが、今回の実験により、金正恩体制発足後、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発プログラムが目覚しい進歩を遂げていることが改めてはっきりした。

 トランプ大統領は、昨年の大統領選挙期間中は、アジアの安全保障については殆ど口にしなかった。例えば、昨年3月21日、大統領選予備選真っ最中にワシントン・ポスト紙と行った単独インタビューで、日本や韓国が「なぜ駐留米軍経費を100%払っていないのか」「日本も韓国もとても豊かな国ではないか」などと発言したことはある。大統領選挙直後の11月7日には当時のトランプ陣営でアジア政策のブレーンだといわれていたピーター・ナバロ現通商製造政策局局長とアレクス・グレイ同国防産業基盤担当副部長が共著で「力を通じての平和がトランプ政権のアジア太平洋外交の原則になる」という論考を「フォーリン・ポリシー」誌に寄稿した。それでも、トランプ大統領がアジア政策をどのように考えているのかについては、つかみどころがない状態のまま、トランプ政権は発足した。そんなトランプ大統領が、大統領就任後に初めて対応を迫られることになった安全保障問題が北朝鮮情勢、というのは何とも皮肉なめぐりあわせだ。

(提供:KCNA/UPI/アフロ)

トランプ政権の「人手不足」リスクが露呈

 しかも、ドナルド・トランプ米政権発足後最初のミサイル実験となった2月12日は奇しくも、トランプ政権発足後初の日米首脳会談のために安倍総理が米国を訪問している最中であった。そのため、北朝鮮問題についてのトランプ大統領の第1声は、安倍総理が隣で見守る中、発せられることとなった。

 この2月12日のミサイル実験以降、北朝鮮は毎月1~2回のペースでミサイル実験を行ってきたが、トランプ政権が一貫した対応を取ってきたとは言いがたい。これは、北朝鮮情勢のような外交・安全保障問題に対応し、同盟国その関係国と種々の意思疎通・調整の最前線となる国務省・国防総省の中堅幹部クラスの指名が大幅に遅れていることと無縁ではないだろう。例えば、アジア太平洋の外交・安全保障問題への対応の要となる東アジア太平洋担当国務次官や、アジア太平洋担当国防次官補のポストは、9月に入ってもまだ、ホワイトハウスから指名の発表すら行われていない状態だ。また、大使人事についても、駐日米大使はすでにハガティ大使が着任しているが、駐韓米大使については、ビクター・チャ元NSCアジア部長でほぼ決まりだという噂はあるものの、正式な指名には至っていない。このような政権内の人手不足がこれまで、米国の後手後手の対応に影響しているのではないかという疑問は拭えない。

 さらに上記のような人手不足のリスクが露呈したのは、8月初旬、金正恩国務委員長がICBM(大陸間弾道ミサイル)をグアムに向けて発射する準備を進めていると発言。これに対してトランプが、挑発的行為が続けば北朝鮮は「これまで世界が見たこともないような炎と怒り(fire and fury)を見ることになる」と警告したときだ。大統領自らが「炎と怒り」のような煽動的な言葉を使って武力行使をほのめかすことは異例中の異例である。トランプ大統領のこの発言については、事後、「大統領自身の言葉だった」とハッカビー・サンダース報道官が認めているが、通常の政権であれば、このような局面での大統領の発言は一言一句、練りに練られたものとなる。大統領のいわば「アドリブ」に任せるようなことはあり得ないのだ。

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