世界の記述

2017年9月22日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 8月17日、スペイン・バルセロナの目抜き通り「ランブラス」で、ワゴン車を暴走させて歩行者に突っ込むテロ事件が発生。それと前後して近郊の都市でも爆破・銃撃事件が起き、合わせて16人が死亡、120人以上が負傷した。

8月17日、テロに襲われたバルセロナは悲しみにつつまれた
(写真・YUKA KOBAYASHI)

 事件から2週間あまり─。市民は、事件前の平静を取り戻している。

 一日平均20万人が訪れるランブラスで、事件直後に起きた映像が手元にある。商店街付近の歩道には、真っ赤な血が流れ、意識不明の女性や、大量出血中の男性らが横たわっている。警察は、犠牲者たちを保護し、応急処置を行っている様子がうかがえる。

 事件に巻き込まれ、2針を縫う傷を負ったキオスク販売員のニコラス・ディアスさん(33)は、「同僚が暴走車にはねられ、宙に舞って落ちた」とテロの場面を想起する。「済んだ事件。今後も心配だが、トラウマは持ちたくない」と勇気を持って営業する。

 警察は事件後、テロを起こした容疑者5人を射殺、4人(後に2人を釈放)を拘束した。暴走後に逃亡した男も、後に郊外で射殺された。全員が、イスラム国(IS)の支持者で、イスラム指導者に洗脳された上での犯行だったという。

 翌週末、テロに向けた合言葉「私は恐れない」を叫ぶ数十万人の市民が町中をデモ行進。片隅では、迅速に対応した警察に市民がバラの花を手渡し、握手を交わす光景もあった。

 警察の機動が速やかだったのは、スペイン国内テロ組織ETAや、2004年にマドリードで起きたアルカイダによる同時多発テロ事件の教訓が生かされているためだといわれる。今回の事件でも、カタルーニャ州警察だけでなく、バスク州警察、スペイン警察が連携捜査に着手。逃亡者がいたにもかかわらず、翌日には、警備を信じる観光客がランブラスを埋め尽くしていた。

 多くのテロ事件を担当してきたホセマリア・フステル・ファブラ弁護士は、主要紙エルパイス(9月3日付)で、「スペインの警察は、対テロでは世界最強といえる」「ETAの経験もあり、他国がゼロからスタートするところを、われわれはリサイクルするだけ」とコメントした。

 警察の対応だけでなく、テロに対する市民の意識も、年々、変化している。昨年7月、フランスのニースで起きたトラック暴走テロ事件の現場にも居合わせたノルウェー出身のアレ・バッケンさん(52)は、ランブラスを散歩しながら、こう語った。

 「今のヨーロッパで、恐れていたら生活ができなくなる。こうして平然と振る舞うことがテロリストに勝つことなのです」

 「テロには屈しない」。警察の活躍以外にも、市民一人ひとりが、こうした共通の認識を持ち始めているようだ。

  
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◆Wedge2017年10月号より

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