あちこち見聞帖 「ひととき」より

2017年9月29日

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大竹 聡 (おおたけ・さとし)

作家

1963年、東京都生まれ。作家、編集者。2002年にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊し、呑兵衛たちの心を鷲掴みに。著書に『ぶらり昼酒・散歩酒』(光文社文庫)、『五〇年酒場へ行こう』(新潮社)、新刊『多摩川飲み下り』(ちくま文庫)。

東海道・山陽新幹線グリーン車の搭載誌「ひととき」の連載「こだま酒場紀行」でおなじみの大竹聡さんが、知多半島の先に浮かぶ日間賀島(ひまかじま)まで、ふらり旅。名物のタコをはじめ、伊勢湾や三河湾で水揚げされた新鮮な魚介に舌鼓を打ちながら、グイッと一献傾けます。

(記事の最後に、大竹さんとお酒が飲める楽しいイベントのお知らせもあります)

サンライズビーチから少し歩いて島の東端へ。のどかな海を前に、おのずと心がほどける

そうだ、名古屋から島へ渡ろう

 名古屋でぽっかり、時間が空いた。まだ昼過ぎ。さて、どうしようか。

 昼の間は観光をし、夜はうまいものを喰い、少し飲んで、新幹線で帰るか。たしか、東京行きの最終は二十二時ごろまである……。

 いや、しかし、明日は週末、急ぎの予定も入っていない。一泊できる。せっかくなら少し足をのばしてみたい……。

 地図を調べてみて驚いた。知多半島の先に、島がある。日間賀島という。知多半島と渥美半島にはさまれた伊良湖(いらご)水道は潮の流れが速く、魚種は豊富で、ときに釣り船からでもかなりの大物を狙えると、聞いたことがある。乗合船の客になるほどの時間はないだろうが、日間賀島もきっと魚介がうまいと想像はつく。それに、久しぶりで、海も見てみたい。

 さっそく交通機関を調べると、意外なほど近い。名鉄河和(こうわ)線の特急で名古屋駅から五十分ほどで河和駅。そこから港まではバスもあるが歩いてもわけはない。港からは船である。幸いなことに天気もいい。船のデッキで風に吹かれながら海を眺めたら気分がいいだろう。頭の中に、そんな爽快な想像が満ちてしまっては、行きたい欲求に抗いようもない。

写真を拡大 知多半島から日間賀島へ渡るには、河和港と師崎港から出ている定期高速船が便利。師崎港からはカーフェリーも利用できる

 十四時半を過ぎたころ、船は日間賀島の港に着いていた。

 さっそくガイドマップを手に入れると、この島は、びっくりするほど小さい。周囲がわずかに五・五キロという。いいのだ。こういう小さな島が、目当てだったのだ。

 足元の海を見下ろすと、潮は引いているようで、堤防のコンクリートの下のほうは濡れて色が濃くなっている。海の近くに住んだことはないのに潮の香りはいつも懐かしく、堤防を歩くと、コンクリートのつなぎ目にいたフナムシがさっと姿を隠す。それも妙に懐かしい気がするから不思議だ。

サンライズビーチでひと休みする大竹さん

 島の北側には、知多半島の先端、師崎(もろざき)と連絡するカーフェリーの桟橋や漁港があるらしい。明日は、ぶらぶらと、島全域を歩いてみようか。

 ひとまず西港付近を散策する。漁師町の細い路地をあてもなくたどっていき、ふと見ると、道端におかれた笊(ざる)で、天草(てんぐさ)を干している。海藻が豊富なら、浜や磯で小魚や貝が育つ。貝が豊富なら、タコもたくさん獲れるか。

西側の集落を散策。海の向こう側にそびえるひときわ高い建物は、南知多町のリゾート施設「チッタ・ナポリ」

 と思う間もなく、通りかかった「かねと商店」の店先を見れば、竹串をつかって目いっぱいに広げられたうえにペロ〜ンと釣り下げられたタコが、海からの風に、かすかに揺られているのであった。実に立派なタコである。

干ダコを見物。「かねと商店」にて

 店内をのぞいてみると、アジやイワシ、ミル貝なども干物にするらしく、季節になればフグもいいという。私はまったく知らなかったけれど、こちらのトラフグは、タコと並ぶ名物であるらしい。

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