前向きに読み解く経済の裏側

2017年10月2日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 日本経済は生産性が低いと言われます。たしかに無駄な会議などもあるでしょうが、過当競争による部分も大きいと思います。過当競争には、過剰なセールス、過剰な値下げ競争、過剰なサービス競争があると思います。かつては過剰なセールス競争が行われていましたし、デフレ時代は過剰な値下げ競争で皆が疲弊していましたが、最近は過剰サービス競争が目につきます。

 良いサービスを提供することで顧客が満足し、それによって高い価格を支払っても良いと考えるのであれば、それは素晴らしいことですが、そうでは無いから問題なのです。

(nattanitphoto/iStock)

ミクロで有効、マクロで無駄なセールス活動は多いが、減少傾向のはず

 自動車各社にとって、セールスパーソンは極めて重要です。自社だけ顧客訪問をしなければ、自動車が売れる確率は大きく低下してしまうからです。そこで、各社ともセールスパーソンを増やすことこそあれ、減らすことは考えにくいでしょう。特に不況期には。

 しかし、日本経済を全体として見ると、異なった景色が見えて来ます。自動車購入を考えている顧客は、誰も訪問して来なければ、自分から販売店に出向くでしょう。自動車各社のセールスパーソンが100回ずつ顧客を訪問したとしても、自動車の売上は1台ですから、全く訪問しなかったと同じです。つまり、セールスパーソンの仕事は日本経済には貢献していないことになります。

 そこで、「各社が一斉にセールスパーソンを削減して生産現場に配置換えをする」という案が出て来ます。もっとも、皆が相談しても話がまとまらないでしょう。「他社がセールスパーソンを減らし、自社だけが減らさない」のが各社にとってベストですから、合意を破る会社が出てくる可能性が極めて高いからです。

 もっとも、こうした非効率は、インターネットの登場で、だいぶ減ったように感じています。セールスパーソンが顧客を訪問して自社製品の品質を説明しなくても、顧客が自分で各社製品の品質等を比較することが容易にできるようになったからです。これは、日本経済全体にとって良い変化だったと言えるでしょう。

デフレの終焉で安売り競争からサービス競争へ

 デフレ時代は、安売り競争が華やかでした。この事自体は、日本経済全体にとって効率化を進める要因であったはずです。安売りをするために、人件費を切り詰め、そのためにサービスを効率化する事に各社が取り組んだからです。

 しかし、バブル崩壊後の長期不況の結果として労働力需給が緩み、安価な労働力が自由に手に入るようになったため、各社が省力化投資に励むインセンティブは削がれてしまいました。「コスト削減のためには、省力化の設備投資をするよりも、安いアルバイトを雇った方が良い」という企業が増えてしまったのです。また、失業が増えると政府が失業対策の公共投資を増やしますし、非効率な企業でも淘汰されずに安い賃金で社員を抱え込むことができるので、これもマクロ的な労働生産性にとってはむしろマイナスの影響を与えてしまったはずです。

 しかも、各社とも利益を削っての安売り競争でしたから、各社の企業経営は楽ではなかった筈です。デフレで世の中のムードが暗かったのも、納得ですね。

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