坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2017年10月31日

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坂本幸雄 (さかもと・ゆきお)

サイノキングテクノロジーCEO、元エルピーダメモリ社長

日本体育大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツに入社し、93年副社長。神戸製鋼所、日本ファウンドリー社長を経て、02年エルピーダメモリ社長。現在サイノキングテクノロジーCEO。

 9月28日、東芝は米投資ファンドのベインキャピタルを中心とする「日米韓連合」と、半導体メモリー事業の売却契約を締結した。ここに至るまで売却先が二転三転し、目標期限を何度も延長した。混乱を招いた責任は、決断を下せなかった取締役会にある。

 こうした会社の存亡を掛けたシリアスな判断は、取締役会のメンバー全員が、決断の後に退職することを決めて臨むべきだった。あらゆるしがらみを絶ち、東芝の将来だけを考えて議論すればここまでの混乱はなかっただろう。

 私がエルピーダメモリの社長として会社更生法を申請し、売却手続きを進めたときは、自身の退職を先に決めていた。余計な介入を避けるため、経済産業省や銀行に対しても情報を出さなかった。

 東芝の社内取締役は3人、社外取締役は6人という構成上、過半数を超える社外取締役の責任は特に大きい。

 かくしてメモリー事業の売却先が決まったが、後の手続きがうまくいくとは到底思えない。米ウェスタンデジタルの訴訟問題が取り上げられているが、それは問題の一部だ。

 大きな問題として、独占禁止法の壁が立ちはだかっている。韓国SKハイニックスと東芝メモリが組むことで、メモリ市場の寡占化が進む。DRAMをみても、既に韓国サムスン電子、SKハイニックス、米マイクロンの3社寡占状態で製品価格が高まっている。5年前は4ギガあたり90銭ほどだったが、今では4ドルほどになった。場合によってはマイクロンが撤退し、2社寡占状態になりかねない。

(iStock.com/doomu/btgbtg)

 中国の独禁法当局の審査は長引くことが多く、簡単にOKを出すとは思えない。独禁法違反かどうかは政府が総合的に判断するが、それには顧客となる中国企業が認めるかどうかが大きく影響する。

 東芝が中国メーカーのファーウェイやレノボなどと直接関係性を築いていたなら気を使ってくれるかもしれないが、商社を使ったやりとりしかしていなければ中国企業からの印象は良くないだろう。

 エルピーダメモリをマイクロンに売却した当時、DRAM市場シェア3位、4位の企業が組むことで寡占化が進む状況だったが、私は普段から中国企業のトップと関係性を築き、彼らが独禁法を使って〝邪魔〟できない環境をつくっていた。それでも独禁法の手続きに5カ月を要した。

 さらに鴻海の訴訟リスクもある。外為法により東芝メモリへの入札で不利になった鴻海が、同じ外資のSKハイニックスが売却先に入ったことに激怒しないわけがない。

 最後に、東芝、東芝メモリをどう成長させていくかという最大の課題が残る。東芝には主要分野が残っておらず、売却額の2・4兆円も、うちいくらが前提条件のついていない自由に使える資本になるのか不透明だ。また、東芝メモリの半導体開発は少なくとも2兆円を要するが、どうやって資金を集めるのか。目先の売却議論だけを見ていては東芝の未来は暗いままだ。

  
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◆Wedge2017年11月号より

 

 

 

 

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