オバマ政権発足から最初の2年間で、強い米国を見直そうとする多大な努力がなされた。この間に政権が取った措置をいくつか見てみるといい。イラクでの公式戦闘作戦を終結させて米軍の人員を減らす、アフガニスタンで大がかりな国家建設計画を控える一方、同国内での軍事作戦を縮小する暫定行程表を策定する、イランおよび北朝鮮の野心と軍事行動を抑制するため、外交と制裁に努める、行動に出ては過度な反発を招く自滅的なサイクルに陥るのを避けつつ、テロリストを無力化する正確な軍事作戦を実施する─。
こうした動きを総合すると、要するに米国は抑制を追求しているのである。軍事的、そして経済的に自制の道を歩もうとしているわけだ。一部の同盟国は米国が縮んでしまうことを懸念するだろうが、世界的規模で米国が進めようとしているバランスの修正は、実のところその大部分がアジア太平洋地域にもっと関与を深めるためだということに留意する必要がある。さらに、米国の抑制は孤立主義でもなければ、宥和政策でもないとつけ加えておくべきだろう。
米国の力の抑制は
微妙な綱渡りとなる
米国は、指導力が決め手となり得るところで指導力を提供することをやめる気は断じてない。さらに、米国は引き続き、ある国の単独行動が地域の安定を脅かす時には、当該国に警告する意思がある。ヒラリー・クリントン国務長官はベトナム・ハノイで開催された今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で(中国に対し・訳注)明確なシグナルを発した。長官はこの多国間協議の場で、米国は紛争を平和的に解決するという原則のために国の信用を賭ける用意があることを明白にしたのである(南シナ海を「中核的利益」の対象と呼び、周辺国に脅威を与えた中国を牽制したもの・訳注)。
その後、アジア海域で実施した海軍の軍事演習は、言葉を実行に移す米国の意思をはっきり示した。一連の軍事演習は北朝鮮に対して、韓国海軍の哨戒艦「天安」沈没事件のような海上での侵略行為が再びあれば、ただの制裁よりはるかに甚大な代償を招くという合図を送った。それに加えて中国は、日本の施政下にある領域は日米安全保障条約の適用対象であり、東シナ海および南シナ海における争議は法の支配の下で解決しなければならないことを理解した。
すなわち米国は世界的規模で力の抑制に努めるかもしれないが、そこには、アジア太平洋に以前より一層積極的に関与する狙いがある。同時に、世界中の同盟国やパートナーに対して、安全保障と国際秩序を守るためより大きな責任を負うことを促す狙いも込められている。これは微妙な綱渡りだ。抑制が不足すると持続不能、行き過ぎれば意図せぬ結果を引き起こしかねない。例えば、アジアの同盟国には懸念を深めるあまり、米国はいずれ衰えると見越して別の保険をかけようとする国が現れるかもしれない。
米国が成功するためには、自ら厳しい選択をしなければならない。まず、米国は本気で通商政策を制定する必要がある。それなしでは、アジア太平洋地域に関わると言っても言葉だけ、実体はないと見えてしまう。
次に、米国は同盟国との平等な関係を真剣に考える必要がある。日本や韓国、オーストラリアといった同盟国は、地域の将来に関する長期的なビジョンを米国としっかり共有しなければならない。台頭する中国をどうマネージするかといった難題は、計算に入っている必要がある。
ジェームズ・スタインバーグ国務副長官が指摘した通り、「米国の将来を考える上での試金石は、米国政府と中国政府が、両国関係を根本的に揺るがすことなく異なる見解を持つことができるかどうか」だ。日本と米国は─ほかの同盟国もだが─この試金石について考え抜く必要がある。
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