2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2010年11月2日

 3番目に、米国は多国間で協調体制が発展することについても節度ある態度を保つ必要がある。それは時として、北朝鮮情勢が不確実な中、抑止力強化のため(6者協議でなく・訳注)日米韓のような3国関係を深めることへとつながる。

 だが、アジア太平洋地域でいろいろ協調体制ができる中、それが開かれたもので、経済協力と戦略面での信頼がともに強まるものである限り、時には距離を置きつつこれを支えるということも米国にとって必要になろう。

 米国政府は自信をもっていてよい。地域に存在する米国との2国間同盟が確かな公共財として信頼のおけるものでなくては、どんな枠組みができるにせよ、実を結ばない。

同盟国の日本に求められるビジョン

 米国の抑制が衰退の前兆となるか再生の兆しとなるかは、大きく言って、米国指導者層の決断にかかっている。結果がはっきりするのはしばらく先になるが、米国の行動の自由は次第に制約されていく可能性が高い。行動の制約は、何ごとにも慎重をもってする政策こそが、最も合理的な針路となることを意味する。

 ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が最近述べたように、将来、「戦争は抽象的なことではなく、国家建設や出口戦略といった具体的な結果を求める場合にのみ、あえて踏み切るものになる」。これが意味するのは、武力行使は先々難しくなり、米国の政府関係者は従来以上に、外交やその他武力以外の力を振るう手段に頼らねばならないということだ。

 すなわち、米国の再生は、同盟国の強さを利用することにかかっている。アジアでは依然、日本以上に強力な同盟国は存在しない。日米両国は、ブレトンウッズ体制による金融秩序や世界的な貿易規定、確立された軍備管理機構、さらには国連といった、民主的でルールに基づく各種機関から成る自由な国際秩序を発展させ、その負担を引き受けてきた。

 同時に、米国のハードパワーと日本のシビルパワーが一緒になって、アジア太平洋地域の平和と繁栄を確実なものにしてきた。同地域では過去35年以上、大きな戦争が起きていない。要するに、日米同盟は自由な世界秩序に必要不可欠な柱なのだ。

 こうして築かれた見事な秩序は今、大きく立ちはだかる難題に直面している。難題を突きつけるのは、責任あるステークホルダー(利害関係者)になりたいのか中華帝国として振る舞いたいのか心を決めかねている中国の台頭かもしれないし、北朝鮮で生じ得る王位継承の危機かもしれない。日本と米国は韓国と力を合わせ、抑止力を維持して安定した環境を守り、経済協力の拡大、政治・軍事的透明性の向上、戦略的な信頼構築を支えていくべきだ。

 一方、環境とエネルギーと経済成長をマネージしていくことは、今世紀のとてつもなく大きな課題だ。これはどんな政府にとっても荷が重い難題とはいえ、各国政府が手を組めば、かなりのことが達成できる。例えば各国の協力で、安全な次世代原子炉が発明できるかもしれない。「グリーン同盟」は、再生可能エネルギーの開発という問題に対処する一助になるはずだ。また、アジアの水源として必要不可欠なのはチベット高原の氷河だが、それが溶けるといった深刻な影響にも対処できるだろう。

 さらに、スマートグリッドをはじめ最先端技術への投資は、地球のためのみならず日米双方の経済にも貢献できる。これは、たった1つの基地を巡って泥沼の論争にはまり込んでいる同盟関係に関する希望的観測にすぎないのだろうか? 日米関係は世界トップクラスの新幹線のようにすばらしいものだが、出発合図がないために、いつまでたっても駅から出発できない、宝の持ち腐れのようなものだ。

 いまは菅直人首相とオバマ大統領が、同盟関係の未来について創造的なビジョンと現実的な行動計画を打ち出す時。それができれば、日米同盟という名の機関車は、再び地域と世界秩序にとって不可欠なエンジンと見なされるようになるだろう。
 

◆WEDGE2010年11月号より

 

 

 

 

 

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