チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年11月2日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 「温家宝総理は最近の一連の講話の中で、政治体制改革を推進するという強い願望を繰り返して表明し、われわれはその実践に積極的に参与したいと考えている」――。

 中国で温首相の政治改革発言が波紋を広げていることは、本コラム(2010年9月22日付「中国で大論争 温家宝『政治改革発言』の真意」)で取り上げたが、冒頭の言葉は、民主活動家・劉暁波のノーベル平和賞受賞決定(10月8日)を「中国現代における重大な歴史的事件」と絶賛した知識人たちの声明に記された「アピール」である。つまり劉暁波と温家宝の政治改革の方向は一緒であると、声明を作成した劉と近い知識人らが考えている証拠である。

 知識人の間の「温家宝論」はさらに熱を帯びている。その焦点は、「政治改革」と「日本問題」。この2つの問題での温家宝首相の対応を取材すると、1980年代後半に失脚した胡耀邦元共産党総書記が重ねて見えてくる。最近の「政治改革議論」「ノーベル平和賞」「反日デモ」「ハノイでの日中首脳会談騒動」という問題は不思議な線で結ばれているのである。

後世への名声のため?
沈黙する党内

 10月3日に放映された米CNNのインタビュー。温はこの中で政治改革についてこう明言した。

 「風雨無阻、至死方休」(困難に負けず、死ぬまでやり抜く)。温の一連の発言を評価する知識人の間で「8文字発言」と呼ばれるほど踏み込んだものだ。北京の元社会科学院研究者はこう解説する。

 「温の発言は、(1980年代に政治改革を推進した)胡耀邦、趙紫陽(元総書記)を超越している。温は『民主』について心に思っていることもあるのだろう」。別の中国政治学者も「(温が秘書として仕えた)胡、趙の影響があるとの見方も出ている」と明かす。

 しかし北京の政治専門家の間でほぼ一致しているのは「温発言に対して胡錦濤総書記ら党指導部内で前向きな反応はない」という点だ。10月27日付の党機関紙・人民日報1面に掲載された「正確な政治方向に沿って積極かつ穏健な政治体制改革を推し進める」と題する論評も、踏み込んだ政治改革議論を明確に否定する。

 「政治体制改革が著しく停滞しているとの見方は客観的事実に符合しない」

 そして複数の中国共産党筋は、10月中旬の5中総会(共産党第17期中央委員会第5回総会)という「政治大会」を控えた温の動きについてこう解説する。

 「任期があと2年に迫った温は一連の政治改革発言を通じ、後世に歴史的名声を残そうとしている」

 さらに上海の消息筋はこう深読みする。「温の家族には腐敗疑惑が出ている。将来的に追及される場合に備えて、温は今、自分と家族を守るために『政治改革を推進しようとしたから追及されたのだ』という印象を海外向けに作り出している。こうした予防線を張っておくことで、追及されにくい政治的環境を作っているのだ」。

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