野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2017年12月18日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

『13・67』の著者・陳浩基(サイモン・チェン)氏

 香港発の本格警察ミステリー、陳浩基(サイモン・チェン)著の『13・67』は、今年9月の発売後、大きな反響を呼び、版を重ねて発行部数はすでに3万部に達している。年末恒例の「週刊文春ミステリーベスト10」と、「本格ミステリ・ベスト10」の海外編で1位という二重の栄誉にも輝いた。日本では馴染みがなかった華文ミステリーへの認知度を一気に引き上げる予想外のヒットとなっており、出版界の注目を集めている。

『13・67』がヒットした理由

『13・67』陳浩基 著、天野健太郎 訳(文藝春秋)

 本書は、香港という中国問題の最先端とも言える土地における政治や社会問題を巧みに織り交ぜながら、本作のタイトルの由来ともなっている2013年から1967年までさかのぼっていく逆年代記方式の6編による構成である。

 主役は香港警察きっての伝説的敏腕刑事、クワンと、その弟子ロー。6編とはいっても、それぞれ短編というよりは一冊の本になってもいいほどの分量と読み応えを備えており、読むものを香港世界に引きずり込んで離さない魅力に溢れた一冊となっている。

 ヒット最大の理由は、徹底的に緻密に練り上げられたプロット、爽快感すら伴う予想外の謎解き、そして、微に入り細にわたる情景描写であろう。

 筆者は日本語版刊行前に作者の陳浩基さんにインタビューしており、その創作方法について、詳しく聞き出しているので、その一部を紹介しよう。

『13・67』はこうして書かれた

 陳浩基さんは自らの創作方法について「まず題材があって現地取材し、その取材のなかでインスピレーションを探すこと」だと明らかにした。こんなたとえ話で、そのプロセスを陳浩基さんは解説した。

 「仮にですが、私が、量子力学というテーマについて書きたいと考えます。量子力学のなかには、神秘的な不確定性原理という理論があることを知ります。その不確定性原理をめぐるアインシュタインとボーアの興味深い論争に関心を持つかもしれません。私は、そうやって段階的に思考と取材を深めながら、作品に向けたインスピレーションを得ていき、本にしていくような感じです」

 『13・67』では、第3話に脱獄をめぐるストーリーがある。凶悪犯の脱獄と同じ日に、露店マーケットなどで発生した一見なんの関係もない硫酸投下事件が、脱獄事件解決の手がかりとなる。硫酸投下事件に対し、「天眼」との呼び名を持つクワンは、現場へのちょっとした聞き込みによって、思いもよらぬ見事な推理を展開していき、事件を解決に導いてしまう。

 大勢の人間が集まるマーケットのような場所で、強酸性の液体である硫酸を投げたらどうなるか、という問題について、陳浩基さんがインスピレーションを得たのは、実際の事件がきっかけだった。

 「硫酸投下という着想があると、私はまず、グーグルマップを開いて、ちょうどいい場所を探します。今回の小説では、セントラルの嘉咸ストリートを選びました。ここは何度も歩いたこともあり、ウォン・カーウァイ監督の映画『重慶森林(邦題:恋する惑星)』で撮影場所にもなっています。私の頭のなかに具体的なイメージもあり、プロットにも合致するので、取材場所に決めました」 「過去に、こうした事件は香港で何度も起きています。私は、その事件を再現するのではなく、事件の形式を借りて犯罪を成立させ、推理のプロットを練るのです」と、陳浩基さんは語った。

 これが、「題材があって、取材する」ということだ。

 取材のときは、どのようにするのだろうか。

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