チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年1月8日

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高田勝巳 (たかだ・かつみ)

株式会社アクアビジネスコンサルティング代表

株式会社アクアビジネスコンサルティング 代表取締役。拓殖大学で中国語を専攻し、1984年より1986年まで中国の遼寧大学、北京大学での留学を経て、1987年に当時の三菱銀行に入行。1993年より同行上海支店開設のために上海に赴任。1998年に同行を退職後、上海で独立し、それ以来上海を拠点としたコンサルタントとして活躍。2002年より現職。この間、多くの日中間のビジネスにコンサルタントとして関与、最近は日系企業の顧客以外にも中国企業の対日投資並びに技術導入も支援している。中国の第一財経テレビ、香港のフェニックステレビの時事討論番組のコメンテーターとしても活躍している。

 1月3日の日本経済新聞の国際面に目を通していたら、中国に関する2つの記事が目に付いた。「世界で新規上場が増えており、全体の1700件の内、554件が中国で、5割近く増えた」という景気の良い記事。米調査会社のユーラシアグループが予測した2018年の10大リスクとして「真空状態(米国)における中国の影響力拡大」というチャイナリスクについての記事だ。まさに、チャンスとリスクが隣り合わせの内容だ。

(NanoStockk/iStock)

 新規上場に関しては、最近の中国のビジネスシーンを見る限り、感覚的には、ほぼ米国のシリコンバレーの中国版を展開しているという状況だ。

 国有資本、民営資本にかかわらず、投資する資金はふんだんにあるが、良い投資先がなくて困っていて、良いプロジェクト、良い技術、良い人材を求めて、金融と大学、研究機関などが、連携しながら、そうしたリソースの囲い込みが図られているのが現状だ。

 経済体制としては、様々な矛盾点、問題点を抱えながらも、試行錯誤の中で、発展を続けている中国経済であるが、上記のような中国版シリコンバレーモデルとも言える形は、確実に中国の成長のエンジンになりつつあるように思われる。

 2つめの記事の真空状態における中国の影響力拡大は、今に始まった話ではない。経済的には、1991年以降の日本の失われた20年は、中国の経済の影響力拡大の絶好のチャンスだった。政治軍事的は、2001年9月11日の同時多発テロにより、米国の視線が中東情勢に向けられているうちに中国は米国の警戒を受けずに影響力を拡大したことは周知の事実ではないか。
 
 昨年末、復旦大学経済学院石経済研究所所長である華民教授の中国のマクロ経済についてのレクチャーを拝聴したが、興味深い内容が多かったので皆さんに紹介いたしたい。中国の経済学者が中国経済全般及びネット経済の現状をどう見ているか。また、日本との経済関係をどう見ているか参考になる。日本を反面教師として見ている部分は、その分析に賛同するかどうかは読者の判断に任せるが、とても面白い。

 景気の良い中国の情勢も一筋縄にはいかない問題を抱えている。また、最近言われている、日中関係の改善についても、中国側にも、日中関係を改善する客観的な動機があることがよくわかる。私は、かねてより申し上げているように、いたずらに中国の負の側面ばかりを強調し、中国崩壊と面白おかしく囃し立てる筋には全く共感しないが、中国経済は確かに様々な問題点も抱えており、正と負の両面からそのバランスを見て行かないと先行きは見えてこないと考えている。

 以下、興味のある部分を抜粋して整理した。そのままでは日本の読者にわかりにくいと思われる部分は、適宜、私の理解に基づき一部補足した。

鄧小平の改革成功の要因と毛沢東の功績

  1. 政府(計画)主導の経済を市場主導の経済に変革させたこと。改革前の失敗の要因は、政府主導の計画経済の限界からくるもので、政府の権限を市場(民間)に移譲することにより経済は活性化した。その後40年が経って、中国は全体の規模では世界第2位となる奇跡とも言える経済発展を遂げ、市場経済化の程度は相当に進んだが、国有資本による市場の独占と富の偏在は、最近逆行する傾向があり、中国経済のより健全な発展を阻害している部分がある。
  2. 輸出主導型経済政策に回帰するべきだ。富がどこに偏在するかは、各国の1人当たりGDPを見ないとわからない。鄧小平の輸出主導が成功したのは、輸出のターゲットを1人当たりのGDPの高い米日に集中したことにある。中国は経済発展に成功したとはいえ、まだまだ人口の70%は所得の低い農業人口であり、そこをターゲットとして経済発展はセオリーとしてはありえない。しかしながら、最近の中国は、内需拡大を唱え、せっかく育成した民間の輸出産業の見捨ててしまった。内需拡大は素晴らしいが、そこにはあるべき順序があるはず。消費拡大は、経済成長の結果であり、原動力ではない。
  3. 輸出主導から見れば、一帯一路も経済発展の原動力にはなりえない。鉄道輸送のコストは開運コストと比べてモノにならないほど割高であり貿易の主力にはなりえない。一帯一路の地域はすでに欧州の商材を好む傾向にあり、中国製品が入り込む余地は少ない。欧州各国が一帯一路に乗るのは自国の商材を売り込むため。
  4. ネット経済は素晴らしいが、経済発展の原動力にはなりえない。BAT(百度、アリババ、テンセント)は、経済発展を成し遂げた中国の富の再分配をしているだけで、自らは富を創造していない。なぜならば、それはゼロサムゲームであるからで、例えば、Eコマースが旺盛になった分、実店舗の商流と雇用機会を奪っているだけ。AI、ロボットも、使い方によっては、ゼロサムゲームになる可能性がある。米国経済は、ネット経済も発展しているが、その他イノベーションなどで実際の富を創造している部分があり中国経済とは本質的に違う。 

【文化大革命で毛沢東がなしえた功績】

  1. 負の側面がほとんどの文化大革命で、誰もその再来は希望しない。ところが、なぜ、鄧小平が改革をなしえたか、それは、毛沢東が、それまでに中国に存在していた既得権益である官僚の権益を全て破壊し尽くしていたからである。改革には常に既存の権益といかに折り合いをつけるかが必要となるが、鄧小平はほぼフリーハンドで行うことができた。

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