2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年1月8日

反面教師として見た日本経済の失敗

  1. 田中角栄の日本列島改造論は、中国の内需拡大の反面教師。日本経済の高度成長の牽引役は、阪神、中京、関東を経済ベルトであったわけであるが、田中角栄が出てきて、全国津々浦々新幹線と高速道路でつないで地方の道路も整備することとなった。それ自体は一見素晴らしいことであるが、経済成長と税収のバランスを考えないと、将来的に重荷になる。日本は、国債という負債に頼ってそれを行ったために、それ以降の負債体質と重税政策と相まって、日本の経済成長の低迷の要因になっている。中国内陸地の開発は素晴らしいが、バランスを考えないと日本と同じ轍を踏むこととなる。
  2. 1985年のプラザ合意時における日本の失敗。当時日本とドイツは2つの選択肢があった。1つは、農産品の市場開放を受け入れる事、もう1つは、通貨の切り上げを受け入れる事。両国とも通貨の切り上げを受け入れたわけであるが、その対応は大きく違った。ドイツ:①減税し、企業への悪影響を軽減した。②賃金標準の引き下げを行い、輸出競争力を維持した。日本:①急激な円高に対抗するため金利を引き下げ、通貨供給量を拡大した。②産業を国外に移転し、企業の輸出競争力を維持した。結果、ドイツは自国産業と技術の維持に成功し、日本は、バブル経済を引き起こし、産業、雇用、技術の流出をもたらした。日本は、同時に内需拡大を唱えたが、消費は、経済成長の結果であり、経済成長のエンジンにはありえない。こうした諸点はすべて中国の反面教師となるうる事象。

 上記、華民教授の分析、読者は、どのように感じられたか興味あるが、以下は、私の感想である。

 なるほど、輸出主導政策がまだまだ中国の経済発展のために必要とすれば、1人当たりのGDPが高い日本の市場はまだまだ重視する必要があるわけだ。経済の自然な摂理に基づけば、中国も日中関係の安定を希望するはず。習近平政権が安定し、対日政策の自由度が増える分だけ、具体的な動きも期待できるのではないか。とはいえ、労務コストが上がった中国が日本への輸出を増やすには、より製品の付加価値を高めることが必要で、日本の技術導入がまだまだ必要という面もある。いずれよ、両国関係の安定は必須条件となる。

 中国のネット経済の発展は、日本でも注目されているが、それだけでは中国の経済発展の健全性は確保されないわけだ。ただ、冒頭でも述べた、中国版シリコンバレー型のモデルは、真の付加価値を生み出す可能性もあり、日本の産業界がその技術を持って関わるチャンスはある。

 文化大革命を既得権益の破壊との分析は私も初めて聞いたが、なるほど、言われてみればたしかにそうかもしれない。中国は経済発展の結果、巨大な既得権益が生まれており、これからさらなる発展には、どうしてもそのことの調整が必要となるのだと思う。習近平政権の権力集中が、そうした面で発揮されることを期待したい。

 日本の列島改造論を反面教師として捉えていたとは意外であった。また、プラザ合意の対応については、中国も米国からの元の引き上げ圧力にさらされているわけであり、日本の対応が大いに参考になっているのであろう。さすが、日本のようにバブルを潰して経済も潰したというような荒療治はしていないが、通貨供給量の増加、賃金引上げ、内需拡大、消費奨励など、日本と同じことを中国も行っている部分もありそう。ただ、中国の場合は、米国との関係から言えば、国際政治のバランスから行って、より自国の立場を主張できる立場にあるので、そこは明らかに日本とは違う点であろう。

  
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