前向きに読み解く経済の裏側

2018年1月9日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 メガバンクが、口座維持手数料を検討しはじめたと報道されています(「3メガ銀が「口座維持手数料」検討へ マイナス金利で苦境、30年度中にも結論」産経ニュース17年12月31日付) 。顧客の立場としては、嬉しくありませんが、これは仕方ないことでしょう。

零細預金は銀行の赤字要因

(DAJ/iStock)

 銀行に預金部門には、さまざまなコストがかかっています。人件費、通帳の印刷費、ATMの設置費用、等々のほかに、あまり知られていませんが、預金通帳1冊ごとに毎年200円の印紙税がかかっているのです。私たちの預金通帳には収入印紙は貼ってありませんが、銀行は発行済通帳数を把握しているので、その枚数だけ収入印紙を税務署に納めているのです。

 こうしたコストは、大口預金者であっても零細預金者であってもあまり変わりません。そうだとすると、零細預金者は銀行にとって赤字要因だということになります。

 「新入社員に預金口座を開設してもらえば、将来は大口預金者になってもらえるかもしれない」といった期待が持てれば別ですが、そうでない口座も多数あります。読者も複数の預金通帳を持っていて、「残高が500円あるけど、面倒だから口座を解約せずに放置してある」といったことがあるかもしれません。そうした口座は迷惑なので、銀行としては解約して欲しいのです。

 そこで、口座維持手数料を取ることが検討されているわけです。顧客が手数料を嫌って口座を解約しても、まったく困りません。解約しなくても困りません。口座維持手数料をとれば、零細口座が赤字要因ではなくなるからです。「残高ゼロの状態が3年続いたら銀行側から口座を解約する」という事にすれば、いわゆる「睡眠口座」の問題も解決するでしょう。

預金部門が黒字だった時は零細口座を維持する余裕があった

 かつて、ゼロ金利でなかった時代には、大口預金者のおかげで銀行の預金部門は黒字でした。ちなみに、多くの銀行では部門別の損益を計算する際、預金部門の集めた資金を経理部に市場金利で貸し出し、融資部門が必要とする資金は経理部から市場金利で借りてくる、という計算をしているようです。

 銀行預金の金利は、通常は市場金利より低いですから、預金を集めて経理部に貸せば利益が出るのです。もちろん、そこから人件費等を差し引いても利益が残るか否かは、市場金利次第ですが。

 バブル期までは、市場金利は結構高かったので、預金部門は結構な利益を稼いでいたはずです。大口預金者のおかげで大きく稼ぎ、零細預金者分の赤字を十分補なえていた、ということですが。そうだとすると、零細預金についても口座維持手数料をとらない理由が二つあります。

 一つは、悪評のリスクです。他行がとらない手数料を自行だけとると、「あの銀行はガメツイ」という悪評がたち、銀行のイメージが悪化します。銀行にとってイメージは非常に重要なのです。銀行は商品の品質で勝負できませんから。

 今ひとつは、零細顧客が将来は収益源に育ってくれるという可能性です。学生であれば、就職してからの給与振込口座に指定してもらうとか、サラリーマンであれば将来住宅ローンを借りてもらえるとか、可能性の大小はともかく、口座を持ってもらうことで、そうした期待は持てたわけです。

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