チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年1月12日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団特任研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 しかし、「いずも」は、スキージャンプ台を取り付ける訳でも、カタパルトを装備する訳でもない。F-35Bという短距離離陸・垂直着陸ができる戦闘機を艦載機として使用するのだ。F-35Bの搭載により、構造を大きく変更するような根本的な改修は必要ではなくなる。それでも飛行甲板の改修は必要になるだろう。

 大型のヘリコプターを運用できるように設計された甲板強度は、重量の面ではF-35Bを運用する際にも大きな改修を必要としないかもしれないが、下方に折り曲げられたノズルから噴射される排気の熱には対処しなければならないと考えられる。構造の大きな変更は行われないとしても、かなり大規模な改修になる可能性がある。

攻撃能力は限定的か

 さらに、改修が終わって、実際にF-35Bを運用が物理的には可能になったとしても、通常の空母に比較すれば、その攻撃能力は限定的なものになると考えられる。それは、F-35Bの短距離離陸能力によるものだ。

 F-35Bは短距離離陸/垂直着陸を実現するために、構造が複雑になって余分な重量を抱えることになるとともに、余分な体積によって燃料搭載量も減少している。さらに、通常離陸に比較して、短距離離陸の燃料消費は大きくなると思われる。そのため、F-35Bの航続距離は、状況にもよるが、通常離陸を行うF-35A/Cに比べて約2/3になっているとも言われる。F-35シリーズは、敵地深くまで入って、攻撃だけではなく、センサー・ノードとしてもネットワークに組み込まれて機能する。航続距離の短さは、F-35が有している能力を制限するものなのだ。

 さらに、「いずも」級が搭載できる艦載機の機数には制限がある。中国の訓練空母「遼寧」は満載排水量で6万トンを超えるが、搭載機数は約20機であるとされる。米国の空母「ロナルド・レーガン」は、平時で40機以上の戦闘攻撃機を搭載していると言われるが、その満載排水量は10万トンを超える。これに比べて、「いずも」は満載排水量2万6千トンである。搭載できるF-35Bの機数は、ヘリコプターの搭載機数である14機と大差はないと考えられる。

 しかも、例えば、効果的に要撃するためには早期警戒機が、空爆をするとなれば電波妨害等を行うための電子戦機が、必要である。搭載する戦闘攻撃機を有効に使用するためには、その作戦を補佐する航空機部隊が必要であり、かえって戦闘攻撃機の搭載機数を制限することになるのだ。

より現実的な空母「いずも」の使用法

 しかし、このように制限された能力しか持たない空母であっても意味がない訳ではない。まず、圧倒的に軍事力に差があり、同盟国も友好国も持たない相手に対しては、限定的であっても空爆が可能になる。能力及び国際情勢から考えても、実際にそのようなオペレーションが実施されることは考えにくいが、空爆の範囲を世界に展開できる能力自体が日本の軍事プレゼンスを高める可能性がある。

 より現実的な空母「いずも」の使用法は、艦隊のエア・カバーを提供することだ。航空優勢の下でなければ、陸上部隊も艦隊も効果的な作戦を行うことができないからだ。海上自衛隊の艦隊が自ら戦闘機による艦隊防空能力を保有することは、航空自衛隊がエア・カバーを提供できない状況にあっても、作戦行動が実施できる可能性を持つことになる。

 敵地攻撃はほとんど考えられず、艦隊防空に用いるのが現実的だという意味において、「いずも」は空母化されても攻撃的な性格は帯びないと言える。中国も、空母化された「いずも」の能力や運用について理解しているだろう。中国国内の報道を見る限り、「いずも」空母化に対する懸念は、現段階では、その能力についてではなく、「日本がこれまでの安全保障政策を変える」という意図に対するものである。

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