海野素央の Love Trumps Hate

2018年2月2日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプ大統領の一般教書演説」です。ドナルド・トランプ米大統領は1月30日夜(日本時間同月31日午前)、連邦議会の上下両院合同会議で、今後1年間の内政と外交の方針を示す初の一般教書演説を行いました。演説の冒頭、ストーリーテリング(物語を語る)の手法を用いて、自然災害に立ち向かった人々の強さを物語風にしたてて語りました。

 次に、好調な経済を全面に出して1年間の成果を強調し、一旦愛国心に訴えてから貿易、インフラ投資、移民制度改革、外交に移りました。愛国心を政策の間に挟んだ点に注目です。本稿ではこの演説を、「成果とセールス」及び「融和か支持基盤か」の2つの視点から分析します。

(Chip Somodevilla/Getty Images)

成果とセールス

 トランプ大統領の一般教書演説は、成果とセールスの2本柱から構成されていました。同大統領が成果の中で、最も強調したのが好調な経済です。

 製造業における雇用増加、失業率減少、大型減税法案の成立並びにボーナスの支給など、経済面における成果を次々にリストしました。なかでも、アフリカ系及びヒスパニック系の失業率の低さを挙げて、「最低水準を記録した」「歴史的な最低水準だ」と豪語したのです。先週、スイスで行われたダボス会議の演説でも、アフリカ系とヒスパニック系の失業率の低さについて言及しました。

 トランプ大統領のこの失業率の発言に対して、アフリカ系のホワイトハウス担当女性記者から、疑問の声が上がっています。この担当記者は、アフリカ系の失業率は白人の倍以上あり、改善されていないと議論しています。確かに、米労働省が実施した人種別の失業率をみますと、2017年10-12月期における20歳以上の白人は3.1%、アフリカ系は6.4%、アジア系は2.7%、ヒスパニック系は4.3%で、アフリカ系の失業率は白人の約2倍です。

 経済における成果に加えて、トランプ大統領は不法移民対策のセールスに時間とエネルギーを費やしました。その際、同大統領は演説会場に招待した2組の両親を紹介しました。彼らの娘は、南米系のギャング集団「MS-13」によって殺害されたと述べ、感情に訴えながら厳格な不法移民対策の必要性を求めたのです。今回の一般教書演説には、過去のそれと比較して招待客の人数が多く、トランプ大統領が自身の主張や政策と、彼らの人生を一致させる戦略に出た点に特徴がありました。

トランプの移民制度改革

 トランプ大統領は、移民制度改革の4つの柱を売り込みました。

 第1は、幼少期に親に連れられて不法入国した、いわゆる「ドリーマー」と呼ばれる不法移民の若者に対する市民権の付与です。180万人の不法移民を対象にすると提案しました。

 第2は、国境警備の強化です。16年米大統領選挙の目玉政策であったメキシコとの国境の壁建設が含まれています。

 第3は、「移民多様化ビザ抽選プログラム」の廃止です。移民が少ない国から抽選でビザを発給するのではなく、技能をポイント化した「メリットに基づいた制度」に置き換えることを提案しています。

 第4は、永住権がある合法移民が親や親族を呼び寄せることができる人数制限です。親族は対象に入れず、伴侶と未成年の子供のみに入国の許可を与える方針です。

 トランプ大統領が、合法移民が呼び寄せることができる人数制限について語ると、野党民主党議員からブーイングが起こりました。これらの提案は、すでに論争を呼んでいます。というのは、合法的な移民までも制限してしまうかです。

 さらに、トランプ大統領が、ドリーマーを取引材料にして、メキシコとの壁建設費の予算計上を迫る戦略が透けて見えるからです。民主党議員には、ドリーマーの人生を交渉材料にしている点が、人道的な見地に立っているようには到底みえないのです。

ドリーマーを守るコノリー議員

 南部バージニア州第11選挙区選出のジェリー・コノリー下院議員(民主党)は、トランプ大統領がドリーマーに一時滞在の資格を与える特別保護措置「ダカ」の撤廃を発表したことに、強く反対しています。コノリー議員は、一般教書演説に、地元のアナンデール高校の女子生徒ニコール・ウリアさん(17歳)を招待しました。

 ウリアさんは1歳の時に、ボリビアから親に連れられて不法入国したドリーマーの1人です。コノリー議員は、「ウリアさんはボランティアとしてコミュニティ活動に参加しており、彼女のようなドリーマーが米国社会の向上に貢献している」と、主張しています。

 トランプ大統領の移民制度改革の提案に対する批判は、民主党議員のみならず、支持基盤である保守強硬派からも出ています。彼らは、市民権の付与は不法移民に対する「恩赦である」と非難しているのです。

 トランプ大統領の不法移民に対する市民権付与の提案は、スティーブ・バノン前首席戦略官兼大統領上級顧問の失脚が決定的であることを物語っています。バノン氏の影響力が大きければ、この提案は決してなされなかったでしょう。

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