海野素央の Love Trumps Hate

2018年1月10日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプの精神状態」です。選挙期間中、ドナルド・トランプ米大統領の資質を疑問視する声がありましたが、トランプ陣営は争点をヒラリー・クリントン元国務長官のメール問題にすり替えることに成功しました。ところが、再度、トランプ大統領の精神的な適性の有無について、疑問の声が上がっています。そこで本稿では、5日に出版されたトランプ政権の暴露本の内容に対する同大統領の反応を分析し、そのうえで11月6日に行われる中間選挙への影響について考えてみます。

核ボタンを使った威嚇

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は1日、新年の辞で「核のボタンは、常に自分の机の上に置かれている」と主張し、米国を威嚇しました。それに対してトランプ大統領は翌日、金委員長に自身の核のボタンは「彼のものよりもはるかに大きくて強力だ。しかも作動する!」と、ツイッターに投稿して応酬したのです。昨年から続いている2人の元首による「言葉の戦争」は、新年早々から核兵器発射ボタンを使用した最高レベルまで達しました。

 早速、ホワイトハウスの記者団は3日に行われた定例記者会見で、「米国民は、トランプ大統領の(大統領職に対する)精神的な適性を心配する必要があるのか」と、サーラ・ハッカービー・サンダース報道官に質問をぶつけました。サンダース報道官は、「精神的適性について心配しなければならないのは、北朝鮮のリーダー(金氏)の方だ」と切り返しました。

 しかし、トランプ政権の暴露本『炎と怒り―トランプのホワイトハウスの内幕(仮訳)』の内容に関する同大統領の反論が、かえってトランプ大統領が精神的能力に欠如しているという印象を、米国民に強めてしまったのです。以下で説明しましょう。

バノンとウォルフの関係

 暴露本の著者でジャーナリストのマイケル・ウォルフ氏は、ホワイトハウスに自由に出入りして、トランプ大統領の側近らに取材を行い、内側から見た政権を描きました。ホワイトハウスの記者団は、ウォルフ氏の姿を観察しており、なぜ何カ月間も政権内部の取材許可を与えたのか疑問を抱いています。

 スティーブン・バノン元首席戦略官兼大統領上級顧問が、ウォルフ氏が側近との面会の予約を取るのを助けたというのが、大方の見方です。対立するジャレッド・クシュナー大統領上級顧問及びゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長などに関する情報を漏洩をしたいバノン氏と、暴露本の出版を狙ったウォルフ氏の利害関係が一致したとみてよいでしょう。

 暴露本に対するトランプ大統領の対応の仕方は異常でした。まず、バノン氏を「解雇された時、職を失ったのみならず正気も失った」という声明を出したのです。次に、ウォルフ氏と出版社を相手に出版の差し止めを要求したのです。それほど、同大統領は神経質になっていました。

精神的能力に欠けるトランプ

 米NBCテレビに出演したウォルフ氏は、トランプ大統領の側近らが「子供(トランプ氏)が何を欲しているのかを理解するようなものだ」と、述べていたと明かしました。さらに、「彼らはトランプ大統領が大統領職に必要な精神的能力に欠けるとみていた」と、語りました。

 一方、トランプ大統領は自身のツイッターに、「大成功を収めた実業家からトップのテレビスターになり、初めての大統領選で大統領なった」とつぶやきました。そのうえで、自分自身を「賢いというよりも、非常に精神が安定した天才だ!」と投稿して反論したのです。

 トランプ大統領のこの投稿に対して、ある白人男性の有権者が次のような書き込みをしています。

 「精神的に安定した天才は、何回も会社を倒産させないし、選挙に勝つために敵対的な外国政府と協力をしない。テープにとられているのに猥褻な会話もしない」

 この男性は、選挙期間中、ロシア政府とトランプ陣営が共謀したのではないかという疑惑、いわゆる「ロシアゲート」と、トランプ大統領の猥褻な会話を録音したテープについて言及したうえで、次のように結論づけました。

 「あなたは精神的に安定した天才ではない」

 トランプ大統領の反論は、皮肉にも同大統領の言動が子供じみていて、大統領職に対する適性がないということを証明してしまったわけです。にもかかわらず、トランプ大統領は反撃を続けました。

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