海野素央の Love Trumps Hate

2017年11月13日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプ訪中の成果」です。アジア歴訪の最大のヤマ場であった米中首脳会談が終了しました。中国側は、とりわけ通商問題に関して、ドナルト・トランプ米大統領と衝突を回避するために、周到な準備を行っていました。本稿では、習近平国家主席からの28兆円の手土産、トランプ大統領の豹変及び中国の同大統領の孫娘アラべラちゃん投入について分析します。

晩餐会で流されたアラベラちゃんがチャイナドレスを着て歌う様子(REUTERS/AFLO)

28兆円の落とし穴

 トランプ大統領は、今回のアジア歴訪において北朝鮮問題では大きな進展を図ることはできないと読み、貿易で確実に成果を上げることに力点を置いたフシがあります。日本・韓国訪問でもそうでしたが、特に中国訪問で本音が見えました。

 トランプ大統領と習主席は、航空機、半導体、農業(大豆・食肉)及び液化天然ガスなどの分野において総額2500億ドル(約28兆円)の商談が成立したと発表しました。習主席は、トランプ大統領の面子を高めるために、28兆円の手土産を持たせたのです。

 米国の2016年の対中貿易赤字は3470億ドル(約39兆円)で、貿易赤字全体の47.3%を占めています。続いて日本の9.4%、ドイツの8.8%、メキシコの8.6%の順になります。貿易赤字の約半分が中国であるわけですから、トランプ大統領が中国に貿易不均衡の是正を求めるのは当然です。

 余談ですが、2016年米大統領選挙でトランプ大統領は、貿易不均衡是正を争点化して、中国、日本及びメキシコの3カ国を標的にしました。ところが、3位のドイツは上の3カ国と比較するとほとんど攻撃対象になりませんでした。その主たる理由は、同大統領のルーツがドイツにあり、しかも白人文化であるからではないか、という見方があります。

 一方、中国に関しては、選挙期間中、トランプ候補(当時)は支持者を集めた集会で対中貿易赤字の問題を取り上げ、「中国は米国を強姦している」と激しく非難しました。さらに、習主席が訪米したら「ハンバーガーを出せば十分だ」と見下した発言もしました。

 トランプ大統領にとって、ハンバーガーは決してお客様に敬意を示す時に用いるものではないのです。率直に言いますと、トランプ訪日の際、日本政府が同大統領にハンバーガーを出して「おもてなし」をした事実を知らされて愕然としました。

 本論に戻りましょう。トランプ大統領は、間違いなく28兆円の商談の成果を白人労働者、退役軍人及び軍需産業を含めた支持基盤に訴えるでしょう。というのは、就任から9カ月が経過しましたが、同大統領の成果に対して、米国民の厳しい目が向けられているからです。米ワシントン・ポスト紙とABCニュースが行った共同世論調査(2017年10月29-11月1日実施)によりますと、65%がこの9カ月間に「成果を上げていない」と回答しています。同大統領は、今回のアジア歴訪において注目を浴びる、しかも目に見える成果を強く望んでいたわけです。

 ただ、今回の商談は「覚書」を交わしたのであって、法的拘束力を持つ契約というよりも、「約束」と言えます。従って、実際のところ、どれだけ貿易赤字の幅を削減し、雇用を創出できるのかは全く不透明なわけです。

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